遊びをせんとや

 ビールケーキ、というんだそうです。 ビールでつくったケーキ。何かと思ったら、缶ビールを積み重ねてケーキのような形にしたもの。それを誕生日祝いにプレゼントしようというのです。
 浦河ひがし町診療所の共同住居「すみれⅢ」で、みんながそんな遊びをしていました。

 アイデアを出したのはソーシャルワーカーの村田藍さんです。
 サプライズの誕生日祝い、おもしろい、やろうと共同住居の全員が乗りました。缶ビールを用意してケーキのように積み重ね、メッセージを書いてポストイットで貼り、スナック菓子や風船で飾りつけます。そうして火曜日の夜、誕生日を迎えた共同住居の世話人でビール好きの、鈴木まいさんを迎えました。

 鈴木さんはそんなたくらみがあるとは知らず、いつものように共同住居にやって来ます。ドアを開けて暗い住居に入ると、ぱっと明かりがつきました。暗がりから出てきた代表が、つっかえながら口上を述べます。誕生日、おめでとうございます。
 え、何これ、あたしの?
 とまどう鈴木さんの前に、寝不足の熊みたいな5人の住人が立ち、ふぞろいだけどどうにかハッピー・バースデーを歌いました。拍手があって、ビール缶のバースデー・ケーキに照明が当たります。
 うわ-、すごーい、感激、ありがとう。
 ふたたび拍手。パチパチパチ。
 村田さんがそれをスマホで記録しています。

 ビールケーキ以外は、どこにでもあるありふれた誕生日祝いです。
 でもそれを祝ったのは、すみれⅢの住人たち。世間一般の基準からすればとてもこんなふうに立ち回れる人たちではない。それが住居の明かりを消し、暗がりでじっと息をひそめ20分、鈴木さんを待ち受けました。突然いなくなる人も、タバコ・タイムで外に出てしまう人も、幻聴で部屋にもどる人もいませんでした。そしてどうにかこうにか、鈴木さんの誕生日祝いをなしとげています。ニッコリしながら。

 奇跡だね。
 翌日、診療所で話を聞いた人からそんなことばがもれました。そう受けとめられても無理はない人たちの、これまでの枠組みを超えた姿です。共同住居で見えた遊び心の余裕。そこに診療所の誰もが、自信と安堵を覚えてもいいのでしょう。
(2021年12月8日)