道路照明の害

 LEDの登場で、道路や街頭は以前よりずっと明るくなりました。
 人間にとっては快適な環境の出現です。でも夜間の照明は、生物界にじわじわと深刻な影響を与えています。
 アメリカやヨーロッパでは、渡り鳥が通過する時期に、鳥の方向感覚を妨害しないよう町の照明を減らそうという運動が起きています。自社ビルの照明を下げる企業も出てきました。

 夜の光は人間にとっては恩恵、でも特定の生物にとっては生存を脅かす「公害」です。
 しかも、光公害は昆虫にまで及んでいる。夜間の広範なLED照明で、ガの一部が半減しているという衝撃的な研究報告をBBCが伝えています(Light pollution from street lamps linked to insect loss. 26 August 2021, BBC)。
 光公害で、虫がいなくなっているらしいのです。

 この研究は、市民団体「バタフライ・コンサベーション」のダグラス・ボイズ研究員らがまとめ、科学専門誌「サイエンス・アドバンシズ」に掲載されました。

 それによると、自動車道路のLED照明などによって夜行性のガの産卵や幼虫の成長が阻害され、一部地域で個体数が半減しています。照明によって天敵に捕食されやすくなったことなどが考えられているようです。

 影響を受けているのはガだけではありません。
 別の調査によれば、ハチやアリ、カブトムシなども減っている。しかもその減少の速度は、鳥や爬虫類などにくらべて8倍も速いらしい。すなわち虫は大型動物よりも急速に姿を消している。虫が減ることで、虫をエサにしている鳥なども減っています(ただしハエやゴキブリなどは増えているようですが)。

 もちろん、昆虫が減っているのは光公害のせいだけではない。気候変動、森や沼などの生息地の減少、殺虫剤などが複雑にからまりあっている。しかし夜間の光の氾濫もまた、彼らの生存を脅かしていることが今回の研究でかなり立証されました。

 研究を進めたボイズさんは、「光の害がはっきりしてきた。昆虫は混乱しているだろうし、その証拠もある。悪影響を減らすにはどうしたらいいか考えなければならない」といっています。
 そして、道路の照明を控えるとか、昆虫に有害な光をさえぎるフィルターをつけるなどの対策をあげています。

 昆虫は、きらわれることが多い存在かもしれません。でも自然環境になくてはならない重要な柱です。その昆虫に異変が起きているとは、なんだかおそろしい話です。
(2021年8月27日)