非常事態

 背景には何があるのでしょうか。
 去年、女性の自殺者が前の年より15%も増えました(厚生労働省統計)。
 一方、男性の自殺はほとんど変わらない。女性だけ、自ら死ぬ人が明らかに増えている。
 コロナがひとつの契機だったのでしょう。

 雇い止め、失職、巣ごもりの子育て。男もたいへんだけれど、女はそれ以上にたいへんだ。その女性のたいへんさが、ぼくらの社会では自殺という形にならないと見えてこないのかもしれない。自助なんていいつづけていたら見えるはずもない。ずいぶん酷薄な社会を、ぼくらはつくりだしているのではないかと思います。

 そんなことを思うのは、アメリカの副大統領、カマラ・ハリスさんのワシントン・ポスト紙への寄稿を読んだからです(Opinion: Kamala Harris: The exodus of women from the workforce is a national emergency. By Kamala D. Harris, Feb. 13, 2021, The Washington Post)。

 彼女はいいます。アメリカではコロナ禍で「250万の女性が職を失った。これは国家の非常事態だ」と。そして「国家の非常事態は、国家が解決しなければならない」と。
 女性が男性にくらべてどれほど不遇か、とくに有色人種の女性が。それは自分自身の経験でもあった。子どものころ、母親が仕事に行くときは妹とともに近所のおばさんに預けられました。女は誰かの、何かの助けがなければ男とおなじようには働けないことを、身をもって知っています。
「すべての働く女性への支援が必要です。コロナがあるなしにかかわらず。女性が全面的に参加できない経済は、全面的に回復することもできない」

 ハリス副大統領は、コロナ不況を抜けだすために大胆な経済政策をと訴えています。
 ワシントン・ポストへの寄稿は、ただの政治演説と見すごすこともできるでしょう。
 けれど少なくともアメリカのナンバー2、日本でいえば副総理にあたる人が、女性の負わされた困難を自身の経験として知っている。それを許容できないといい、女性への支援にはっきりと声をあげている。そのためには国が動かなければならないと具体的な施策を提示しもしている。
 アメリカの女性は、もしかしたらそこで自殺を思いとどまるかもしれません。
(2021年2月26日)