日本でもどこでも、政治家はかならず経済成長を訴えます。
あいも変わらぬ主張に、ときどき不安を覚えることがあります。
成長、成長、って、いったいどこまで成長すればいいのか。成長って金をもうけることなのか。人間のあくなき欲望と利便を満たすことなのか。地球環境は破滅に向かうだけではないか。
成長への疑問を多くの人が抱くようになりました。そこで先進国では「緑の成長 green growth 」が唱えられるようになりました。環境を守りながらの経済成長です。

ところが急速な気候変動、地球温暖化の前に、もはや緑の成長でも追いつかない。
そこで出てきた先進の思想、「非成長 degrowth 」らしい。
経済成長は、もうやめようというのです。
ニューヨーク・タイムズのボカート=リンデル記者がニュースレターで伝えていました(To stop climate change, shrink the economy? By Spencer Bokat-Lindell, September 16, 2021, The New York Times)。
非成長を唱えはじめたのは、経済人類学者のジェイソン・ヒッケル博士。
ヒッケル博士の考えは、地球上の資源は有限で、経済は無限に成長することはできないというあたりまえの認識からはじまります。化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を急ぎ、資源やエネルギーの消費を減らして旧来の経済成長を離れることが必要だとして、格差是正とよりよき生を求める。

その主張を要約するのはむりですが、縮小すべきは先進国の経済であり、その余剰を途上国が受け取ればいいという考え方は、大胆を通り越して無謀です。けれど縮小すべき先進国経済の例として、「SUV、兵器、牛肉、自家用車、過剰な広告や消費刺激手段」などを列挙されると、それはそうだなとも思う。そうした経済活動を途上国の保健や教育に転換すれば、いまよりよほど公正な地球が可能になるでしょう。
そんな夢物語、考えるだけムダ、とほとんどの人は思いますよね。
でも、だからこそぼくはそういう物語に共鳴してしまう。
非成長。それはいつか夢ではなく、現実になる。
ヒッケル博士は、ロンドンやバルセロナをベースに活動している俊英らしい。しかも生まれは南アフリカの内陸にあるエスワティニ王国(旧スワジランド)だとか。なんとすばらしい! とわけもなく思ってしまいます。

(2021年9月26日)