3日、浦河ひがし町診療所のデイケア・プログラムは、「音楽の時間」でした。
十数人のデイケア・メンバーが輪になって座り、音楽を楽しむ時間。いつもは20人を超えるけれど、暑さもあってこの日はやや人数が減りました。

そこで演奏されるのは、ひとことでいえば音楽ではない音楽です。
みんながてんでんバラバラに楽器を奏でる。楽器といってもほとんどは打楽器で、シェーカー、カスタネットからタンバリン、コンガ、カホン、その他、たたいて音が出るものなら何でもいい。ペットボトルに小石を入れただけでも、ここでは楽器になります。
それで、音を出す。
原始的で、ラジカルで、とらえどころのない音の集まり。
いったいこんなのが音楽なのかと、はじめて聞く人は思うでしょう。
でもこれがひがし町診療所デイケアの「音楽」なのです。
見方によっては最先端、見方によっては原点の。

立花泰彦さん(右)
仕掛け人は、ジャズ・ミュージシャンの立花泰彦さん。
縁あって浦河に住み着き、縁あって診療所の音楽の時間をみんなとともに楽しむことになりました。
立花さんはジャズの人だから、楽譜なんてものは使わない。既存のメロディーを「上手に再生」することにはまったく興味がない。その時その場でそこにいた人が即興でつくりだす、そういう音にかぎりない可能性を見いだします。立花さんのしかけ、けしかけで、デイケアのメンバーは5年前からこの音楽を楽しむようになりました。音をとおして自分を表現するようになったのです。

なかには2,3人、むかしバンドをやっていたという人もいます。でも彼らがリーダーになることはない。うまい下手は関係なし。みんなしろうと、しかも精神障害者。
そんな人たちがバラバラに音を出して、何が楽しいのと思うかもしれません。
でも音楽の時間はもう5年もつづいています。
それはきっとこの場が「表現」を突きつめた場だから。
それ以前に、いるのが楽しい場だから。

ここで行われているのは「学校では教えてくれない音楽」です。
音楽ってこういうものだよ教えられるのではない、型から自由な音楽。
「すごいおもしろい。プロからしたら思いもよらない音を出すんですよね」と、立花さんはいたく気に入っています。
(2021年8月4日)