年代物のウィスキーを、わずか1日でつくる。
そういう技術ができたんだそうです。アメリカで。
これはかなり衝撃のニュース。弾劾裁判もコロナも飛ばして、まずこの記事に目をとおしました(Can a Fine Whiskey Age Overnight? By Clay Risen, Feb. 11, 2021, The New York Times)。

高級ウィスキーというのは原酒を樽に詰め、その樽を数年から10数年、長い場合は30年以上寝かせて熟成させます。それだけの年月をかけて、あのまったりと薫香の立ち上る魔法の飲み物ができる。30年物は何万円、もしかすると何十万円もするんじゃないかな。買ったことないから知らないけど。
ところが、そういう高級ウィスキーにそっくりな製品をわずか数日でつくることができる。原酒を入れた樽に熱と空気圧を加え、それを1日に何度もくり返すのだとか。するとあら不思議、たちまち「熟成ウィスキー」ができてしまう。

熱と圧力を加えると原酒は樽の木材に浸透する。冷まして圧力を下げると木材からしみ出てくる。それをくり返すと熟成酒の色と芳香が付くというわけです。天然の樽が何年もくり返して過ごす四季の移ろいを、人工的に短時間で起こしてしまうんですね。
こういう「即席の年代物ウィスキー」は、カリフォルニアのビスポークン・スピリッツ社など数社がつくっていて、値段は30ドルから40ドルくらい。けっこう高いけれど、その何倍もする老舗ウィスキーと肩を並べるそうです。

新興メーカーの強みはデジタル技術。工程や添加物などをITで制御しているから、原理的にはどんな製品もできるらしい。
専門家は、20年物ウィスキーにはまだ及ばないとみている。でも安ウィスキーのレベルはとっくに超えている。ウィスキー業界は近年、高級ブランドが世界的に品薄なので、「即席年代物ウィスキー」はどんどん広がるだろうといいます。
てことは、「即席年代物ワイン」も時間の問題なんじゃないか。
楽しみでもあり、味気なくもあり。
でも、音楽がすべてCDやストリーミングにならないように、IT系の酒がどんなに出てきても天然系は残るでしょう。ぼくが生きてるあいだくらいは。
(2021年2月13日)