ハシヂロコウギョクチョウ、という鳥がいます。
アメリカの小鳥で、英語名はジェイムソンズ・ファイアフィンチ(Jameson’s firefinch)。
またタウンゼントアメリカムシクイ、という鳥がいます。ウグイス科の鳥で、英語名はタウンゼンズ・ウォブラー(Townsend’s warble)。
のっけから舌をかみそうな、わけのわからない鳥名を並べてすみません。
こういう鳥の名前に共通していることがあります。
名前の一部が、人種主義者の名前になっていることです。

(Townsends Warbler, iStock)
ジェイムソンというのは19世紀の博物学者ですが、アフリカで少女を奴隷として買い、事実上虐殺したことを自分の日記に書いています。黒人少女を人間だと思わなかったんでしょうね。そのジェイムソンの名前は、ファイアフィンチを含め3種類の鳥についています。
タウンゼンドの名前は、2種類の鳥に付いています。タウンゼンドも博物学者で、ネイティブ・アメリカンの墓を暴き、頭蓋骨を掘り出している。白人の優越性を証明するためですね。証明なんかできるはずないのに。

チェロキー語の名前は「ツイキリリ」
そういう、いまから見ればずいぶんひどいことをした人びとの名前が、150種もの鳥につけられています。
それ、鳥がかわいそうでしょ。
21世紀のアメリカでそんな命名は許されない、変えようという議論が起きているとワシントン・ポスト紙が伝えています(The racist legacy many birds carry. June 3, 2021, The Washington Post)。
ポスト紙の記事がいいなと思ったのは、書いたのが黒人のダリル・フィアーズ記者で、取材対象にちゃんと女性の鳥類学者でやはり黒人のコリーナ・ニューサムさんがふくまれていたことです。鳥類の研究、自然保護という、これまで白人が支配してきた領域に黒人が入ったらどう見えるか、そのあたらしい風景を伝えています。
鳥の名前をつけなおそうという議論は、そのひとつに過ぎません。黒人にはずっと、白人が知ることのない違和感や痛み、戸惑いがあったのです。

(先住民は「ウェスラオスキ」と呼ぶ)
黒人女性鳥類学者という、きわめて希少な存在のニューサムさんはいいます。
「野外の観察で双眼鏡をのぞいてるとき、白人の車や姿が見えたら気をつけるんです。観察用のいろんな機材を自分の手元から離し、相手によく見えるように並べる。あやしいことはしてない、って。白人とのトラブルには巻きこまれたくないから」
黒人でなければ、わからない感覚でしょうね。
(2021年6月6日)