ハームリダクションという考え方について書きました(6月29日)。
麻薬などの薬物依存に対しては、禁止や処罰ではなく、「生き延びよう」と呼びかけるアプローチです。
そのために清潔な注射針や、麻薬対策の医薬品などを支給する支援方法です。
ハームリダクションの考え方で立ち直った、かつての麻薬常習者、マイア・サラヴィッツさんがニューヨーク・タイムズに投稿しています。説得力のある意見だと思いました(How Drug Users Developed a Key Approach to Fighting Covid. By Maia Szalavitz. July 23, 2021, The New York Times)。

サラヴィッツさんは1980年代、ヘロインの常習者でした。友だちのひとりからとにかく注射器は「2度洗い2度すすぎ」で消毒しろといわれ、それを守り、おかげでエイズなどに感染せずにすんだといいます。生きのびたおかげで更生し、麻薬から抜け出すことができました。
自身の経験をふり返っていいます。
・・・麻薬をなくすことはできない。現実的なのは麻薬をなくすことではなく、麻薬の害を減らすことだ。コロナをとおしてみんな学んだではないか。コロナをなくすのではなく、たとえばソーシャルディスタンスで「危険を減らす」ことが現実的な対応なのだ。

ハームリダクションは、麻薬を禁止し、法で取り締まるよりはるかに効果を上げている。
清潔な注射器を配布することで、エイズのまん延は防止された。麻薬の過剰摂取から人命を救う薬、ナロキソンの無料配布で、何万もの生命が救われた。麻薬をやめなくても入れる住居を用意したことで、ホームレスは3分の1にまで減っている。
ハームリダクションの考え方は、ヨーロッパではじまったものだ。1981年、オランダ政府の支援を受けた活動家が清潔な注射針の無料配布をはじめ、それが各地に広がった。ことしになってアメリカでも、歴代政権ではじめてバイデン大統領が政策に取り入れている・・・

サラヴィッツさんは、ハームリダクションの支援を受けた人はそうでない人にくらべ、依存から回復する率が5倍も高くなるといいます。
なぜそうなるのか。
それは、禁止と処罰の政策はつねに麻薬利用者を「ダメ人間」と見るのに対し、ハームリダクションという枠組みは彼らをつねに「自分たちとおなじ人間」として見るからではないかといいます。
人としてまともに扱われた人は、自分自身もまともに扱うようになる、ということではないでしょうか。
(2021年8月15日)