CODA作品賞

 取れるんじゃないかなと期待していたら、みごとに取りました。
 映画「CODA」がアカデミー賞作品賞です。
 助演男優賞、脚色賞とあわせて3賞の受賞、すばらしい。

 去年、サンダンス映画祭で受賞して以来、この映画については何度かこのブログでも書いてきました。アメリカのろう者の家族と、家族のなかでただひとり耳が聞こえる聴者の娘(CODA、Child Of Deaf Adults)の物語です。映画自体よくできているけれど、メジャーな劇場映画としてはじめてほんとうの手話とろう文化が描かれていました。

「CODA」の出演者
(左から2人目がトロイ・コッツアーさん)

 ぼくはこの映画がアカデミー賞の作品賞、いわば映画界の総合チャンピオンの座についたのは、「ろう者がろう者役を演じた」からだと思っています。そしてまたそういうマイノリティの存在をアカデミー賞がはっきりと反映するようになったからだと。

 CODAでろう者の父親を演じたトロイ・コッツアーさんは、助演男優賞を獲得しました。
 そのコッツアーさんの受賞演説を、ニューヨーク・タイムズは多くの受賞スピーチのなかで「もっとも感動的」だったと評しています。もちろん生粋のアメリカ手話でのスピーチでした(Troy Kotsur makes history as the first deaf man to win an acting Oscar. March 28, 2022, The New York Times)。

オスカーを持つ”ろう家族”
(コッツアーさんの Instagram から)

「ありがとう、アカデミー賞のみなさん。“CODA”が広く見られるようになり、私たちはホワイトハウスにも招かれました。そこで私はバイデン大統領に、ちょっと危ない手話を教えてしまおうかと思ったのですが、仲間に止められてやめました。きょうここでもやばいことばは使わないことにします」
 映画CODAのなかでは、コッツアーさんが聴者にシモネタの手話を教え、その聴者が真面目くさってとんでもない手話を使うのをからかう場面があります。それを大統領にもやらせようとして思いとどまったというジョークです。ろう文化を知る人ならそこに濃厚な“デフ・ジョーク”の影を見出すでしょう。

”C・O・D・A”
(コッツアーさんの Instagram から)

 とはいえコッツアーさんは冗談だけいっていたわけではない。受賞できたのはデフ・シアターの仲間、ろうコミュニティのおかげといっています。とりわけ、父親こそはもっともすばらしい手話の使い手だったと感謝のことばを忘れませんでした。
 ろう者の自分は、手話のおかげで今日ここまでたどり着いた。そのことに感慨無量だったでしょう。そしてまた手話を、ろう文化をそのまま映画に生かしてくれたシアン・ヘダー監督にも特別な感謝の情をのべています。
 そのヘダー監督、さんざ迷ったけどやっぱりろう者役にろう者を起用してよかったと、いまはしみじみ思っているんじゃないでしょうか。
(2022年3月29日)