DVは1日で消える

 DV、ドメスティック・バイオレンスに24時間以内に反応する。
 アイスランドの警察や関係者がこんな対応をしています。
 なぜ24時間か。
 それは1日以上たつとDVが消えるからです。加害者も被害者も「そんなことはなかった」というようになる。そうなる前に介入する、画期的な戦略です(The ‘window’ saving families from domestic violence. Feb. 21, 2022, BBC)。

レイキャビク(アイスランド)

 男女平等が世界でもっとも進んでいるアイスランドも、女性の22%は身近な人からDV、家庭内暴力や虐待を受けています。
 BBCの取材を受けたソニアさんの場合、最初は精神的な虐待でした。
「やがて身体的な暴力になって、4,5年つづきました。殴る、首を絞める、蹴る。でもいつも、そのあとでもとにもどるんです。彼がもうしないと約束するから」
 それがついに限度を超し、アパートから投げ出されて助けを求めました。

 そういう声に24時間以内に対応するのがアイスランド方式、DV対応の訓練を受けた捜査官、ソーシャルワーカー、児童保護の専門家が通報とともに現場に向かいます。
 ソーシャルワーカーはいいます。
「24時間以内に現場に行かないと、加害者と被害者がもとにもどってしまう。そこで加害者が被害者にいうんです。『お前のせいだ、出ていくっていったってどこに行く場所があるんだ』。数日すると二人とも『何もなかった』というようになる。介入の機会が失われるんです」

 その前に動くアイスランド方式。24時間以内の対応は状況をそれ以上悪化させないし、より多くの証拠がえられる。関係者の記憶も新しく証言も集めやすい。
 こうした体制があるので、2014年以来、警察への通報は倍増しました。以前なら「なかったこと」にされていた被害が、「あったこと」になったのです。

 すばらしい。さすがアイスランド。
 でもそういう体制ができるのはそれなりの余裕と経済力があるからでしょう。
 BBCが取材していた場面では、通報に応じて3人のチームが午前4時に出動していました。そういう対応がいつもできるためには、多くの専門家が待機していなければならない。そこまでの負担を社会が認めているということは、家庭内暴力や虐待を「なかったこと」にはできないという思いが広く社会に共有されているからです。

 そういう思いをどうすれば共有できるようになるのか。あるいは、ぼくらの社会はどうしてそういう思いを共有することができないのか、そのことを考えてしまいます。
(2022年2月23日)