中国の人権抑圧に「真正面から抗議の声を上げているアメリカのスポーツ選手」がいると書きました(2021年11月16日)。その後この選手は仕事を失い、事実上プロスポーツ界から追放されました。
この問題、日本のメディアはほとんど無視しているけれど、ぼくは注目するので書きます。
出典はワシントン・ポスト(2月15日オピニオン)、ニューズウィーク(2月23日ウェブサイト)、アトランティック誌(2月16日George Packer記者)です。
この選手は、NBA(アメリカ・プロバスケットボール)のボストン・セルティクスに所属していたエネス・カンター・フリーダム選手です。

(本人のツイッターから)
スイス生まれでトルコ育ちのフリーダム選手は、かねてからトルコの強権政治を人権抑圧だと批判していました。このために迫害され、アメリカに逃れています。人権は自分自身の問題なのです。だから去年、「残酷な独裁者・習近平へ」というビデオメッセージで、中国のチベットやウイグルの民族迫害を批判しました。たんなる思いつきではなく、たとえばウイグル問題ではおなじムスリムの仲間としての在米ウイグル人に話を聞くなど、きちんとたしかめた上で発言しています。
けれど中国政府は激怒しました。中国国内でのセルティクスの試合は上映中止となり、中国に60万人いたというフリーダム選手ファンのアカウントはすべて抹消されたといいます。

そしてこのほど、ボストン・セルティクスがフリーダム選手との契約を解消しました。巨大市場中国での興行収入を守るためです。プロバスケットボール界でのフリーダム選手の選手生命は、これで事実上終わりました。
中国のカネの前に、IOCだけでなくNBAもまた屈したのです。
しかしフリーダム選手は屈しませんでした。
北京オリンピックを見るのを拒否し、人権のために発言しつづけています。

去年11月、フリーダム選手はアメリカ国籍を獲得し、このとき名前を「エネス・カンター」から「エネス・カンター・フリーダム」に変えました。
そのフリーダム選手に、世界25の著名な人権団体が2月22日、今年度の「勇気賞 (Courage Award)」を贈ると発表しています。ロシアの反体制活動家アレクセイ・ナバリヌイ氏にも贈られた賞です。その前の週には、ノルウェー議会がフリーダム選手をノーベル平和賞候補のひとりにノミネートしました。
オリンピックでメダルを取ることはすばらしい。でもぼくにはフリーダム選手の生き方の方が、さらにすばらしいものと映ります。
(2022年2月24日)