あかさたな話法

 浦河から情報がひとつ、届きました。この人知ってますかと。
 天畠大輔(てんばた・だいすけ)さん、1981年生まれ。重度の障害者で、立命館大学の研究員です。この人の「通訳」を、浦河ひがし町診療所スタッフの娘さん、なおちゃんが努めています。

 天畠さんは四肢麻痺だけでなく、視覚・嚥下にも障害があります。発語が困難で、「あかさたな話法」と呼ばれる特別な方法でないと会話ができない。そのやり取りを進めるのが通訳の仕事です。

天畠大輔さん
(本人の Facebook から)

 あかさたな話法は、目が見えにくく手先も不自由な天畠さんが、腕の動きで1文字ずつことばを伝える方法です。たとえば「て」という文字は「た行」の4番目なので、通訳が読みあげる「た行」と「て」のところで腕を動かします。
 1文字表現するのに数秒かかるときもあリ、「てんばた」という名前をいうだけでもたいへんです。だから通訳者は「先読み変換」する。「てんば」まで読めば「てんばた」に変換する。前後の流れがわかっていれば「てん」の時点で「てんばた」にする。

 天畠さんの語彙、思考パターン、慣用句や言い回しを、通訳は熟知していなければならない。天畠さんの頭のなかの日本語を、ただ音声にするだけでなく、その過程で高精度な言語操作が必要です。発語介助というより言語思考へのシンクロ、通訳に近い部分がある。

 実際の場面をユーチューブで見ることができました。
 盲ろう者が使う触手話に似ているけれど、それともちがう。一見非効率な方法だけれど、天畠さんはこの方法でないと会話ができない。社会生活に欠かせないコミュニケーション手段だとわかります。

 さてこの天畠さんは、次期参議院選挙にれいわ新選組から立候補することになりました。6月17日の記者会見には、通訳のなおちゃんも登場しています。
 それを見てぼくは、天畠さんという人は並の政治家よりよほどまともな人ではないかと感じました。たんに障害者の権利や福祉を訴えるのではなく、ぼくらの社会をどうつくっていけばいいかを、彼自身の経験をもとに呼びかけているからです。

立候補記者会見(6月17日)
(大きく口を開けているのは、演技でなくあごの筋肉が制御できないためだそうです)

 14歳のとき医療事故で重度障害者になった天畠さんは、一時はすべての選択肢を奪われ、「死にたい」と思いつめました。いまは「誰にも居場所のある社会」をつくりたいといいます。こういう人を応援したいと思える「思い」を持っている人です。

 きっと、なおちゃんもおなじような気持ちで通訳を努めているんだなと思いました。
(2022年6月21日)