どうしたイルカ

 ウクライナ戦争のせいでしょう、イルカが黒海で大量に死んでいます。
 ウクライナの環境科学者、イワン・ルセフさんの推定では、死んだイルカの数は数千頭。なぜいまの時期にこんなにたくさんのイルカが死んでいるか、原因はよくわかりませんが、科学者は戦争のせいだと考えています(Dolphins are dying across the Black Sea, possibly as casualties of war, scientists say. June 2, 2022, The New York Times)。

 黒海は北にウクライナとロシア、南にトルコ、西にブルガリアとルーマニアがあり、ボスポラス海峡で地中海とつながっています。この沿岸の全域で、死んだイルカが打ち上げられるようになりました。被害は相当な規模に達しているけれど、黒海はロシア海軍が支配しているので詳しい調査はできません。

 イルカを追い詰めているのは、戦争による環境破壊でしょう。具体的には戦争で艦船の動きが増えたこと、強力なソナー、水中音波探知機を使用する頻度も増して、イルカの感覚が混乱していることが考えられます。イルカは海中で暮らすとき、音波を使って情報を集め、食料を探しているからです。

 また機雷にふれてケガをしたと見られるもの、ヤケドを負っている個体もあるとルセフさんはいいます。陸地で使われている膨大な爆薬のなかには有毒な物質もあり、それが川に流され、海に出て海洋生物に影響している可能性もあるといわれます。

 イルカの死亡はウクライナの対岸のトルコでも共通していて、トルコ海洋研究基金は3月、イルカの異状死が急激に増えたと報告しました。

 戦争がはじまる以前、黒海地域では各国の海洋科学者が大規模な環境調査を行っています。その結果、黒海地域には25万3千頭のイルカが生息しているとわかりました。その生息環境が戦乱で深刻な影響を受けているということでしょう。

 ウクライナ戦争は人的な被害、生活環境の破壊もひどいけれど、自然環境の破壊も進んでいる。しかし戦況は膠着状態で、近い将来に終わる見通しはありません。
 イルカの受難はつづきます。
(2022年6月3日)