インフルはどこだ

 コロナに気を取られてるあいだ、インフルエンザはほとんど話題になりませんでした。
 この2年、みんなマスクをして手洗いに努めたから、インフルも流行らなかった。
 と思いたいところですが、いやそうではない、インフルが少なかったのはウイルス同士が牽制しあったからだという研究報告があります。
 もしかすると、コロナが流行ればインフルが引っこむ、またその逆も起きるかもしれないということです(Why a Coronavirus-Flu ‘Twindemic’ May Never Happen. April 8, 2022, The New York Times)。

 専門家はこの現象を「ウイルスの干渉」と呼んでいます。イエール大学のウイルス学者、エレン・フォクスマンさんはいいます。
「私たちが調査したところでは、たしかにウイルス干渉は起きてます。コロナとインフルが同時にピークに達することはないと思います」
 なかには両方のウイルスに感染する人もいるけれど、大多数の人はそうはならない。

 コロナ (Covid-19) 以前、重篤な呼吸器感染症といえばインフルエンザでした。2018年から19年にかけ、アメリカでは1300万人がインフルに感染、死亡者も2万8千人出ています。それが去年からことしは感染者200万人、死亡者5800人と減っています。
 最初のうち、専門家もマスクやソーシャルディスタンスの影響と思っていました。でもコロナが下火になり、マスクやディスタンスが廃止されてもインフルは増えていない。

 インフルだけでなく、一般的な風邪を起こすRSウイルスの感染パターンも変わっています。例年なら秋から冬にかけて流行するのに、コロナが広がった2年前には激減し、コロナが下火になった去年夏にピークを迎えている。

 こうしたことから、ウイルス干渉は現実に起きていると考える研究者が増えました。インターフェロンという免疫物質がかかわっているという報告もあります。これはコロナでもインフルでもRSでも、ウィルスが呼吸器に感染するとインターフェロンが現れ、その後別のウィルスが入ってきてもこのインターフェロンが持続して働く、という見方です。
 ウィルス干渉の主役はインターフェロンなのかもしれない。

 ヒトの免疫系はきわめて複雑なので、仮説の検証にはさらに時間がかかるでしょう。インターフェロンは、コロナとインフルでは反応がちがうという見方もある。しかしコロナとインフルの感染が重なったらたいへんだと深刻な懸念を抱いた人びとは、そろそろ一安心していいのかもしれません。
(2022年4月15日)