ウソと陰謀論には

 なぜぼくらの脳はウソを信じるか。
 こんなタイトルの記事を読み、あれこれの考えをめぐらせました(Why do our brains believe lies? November 3, 2022, The Washington Post)。

 この記事は、アメリカでますます多くのウソと陰謀論がはびこっているけれどそれはなぜか、背景を探ろうとしています。
 ウソの代表は、2年前の大統領選挙はインチキだったというものでしょう。インチキのせいでトランプ大統領は当選できなかったと怒った暴徒が連邦議会を襲撃し、民主主義の殿堂は大混乱に陥りました。アメリカは暴力的なだけでなく、すごく幼稚な国なんじゃないかと心配になったものです。ま、日本だって政治家は平気でウソをつくから人のことはいえませんが。

 政治家がウソをつくだけならまだいい。真に問題なのは、多数の有権者が明白なウソやとんでもない陰謀論を信じていることです。なぜそんなものを信じてしまうのか、メディア専門家や心理学者のコメントをまとめて記事はいいます。
 人間の脳がそうできているから。
 たとえば、くり返しに弱い。ウソであっても、何度もくり返されるとほんとうになる。選挙はインチキだと聞いて、はじめはわからなくてもSNSでくり返し目にし、政治家に何度も連呼されるうちにほんとうになる。ウソがその人の世界観になじみやすいものであればさらに信じやすい。政府は腐敗しているから国民をだましていると日ごろから思っている人は、選挙はインチキだとかんたんに信じてしまう。

 人間の脳は一度覚えた記憶を消すことができません。どんなに正確な事実、ホントのことを伝えても、古い記憶が残っているかぎり「書き換え」はむずかしい。そういう脳のしくみを突いて、「そうかもしれない」は「そうにちがいない」に変わってゆきます。だからウソと陰謀論は止めることができない。アメリカの共和党支持者は、過半数が「インチキ選挙」を信じているというからそら恐ろしい。

 どうすればいいか。
 もっとメディアやネットを読み解くリテラシーの力が必要だと多くの識者がいいます。それはそうだと思いながら、ぼくは別なことを考えました。
 学ぶことも大事だけれど、それよりもっと大事なのは人に会うことではないか。それも自分とはちがう人たちに。人間って、いろいろな人がいるということ。そういう人たちに出会って自分の世界観を変えてもらう。そういうアプローチもあると思います。相手を変えるのではなく自分を変える。そこからはじめるアプローチをぼくは精神障害から学んだ気がするのですが、意外とこれはリテラシー教育より有効なんじゃないかと思っています。そのことをさらに考えてみます。
(2022年11月7日)