オレゴンの麻薬

 アメリカ西海岸のオレゴン州で、医療幇助による死、MAID(Medical Aid In Dying)が合法化され、成果を上げていることを書きました(1月26日)。そのおなじオレゴン州で画期的な麻薬対策が進んでいます。
 麻薬の依存、使用を「犯罪ではない」と考えるのです。刑務所に入れるのではなく、地域での回復を助ける。
 これこそが真の麻薬対策と、薬物依存を専門とする著述家のマイア・サラビッツさんがニューヨーク・タイムズに書いています(Treating Addiction as a Crime Doesn’t Work. What Oregon Is Doing Just Might. Jan. 26, 2022, The New York Times)。

マイア・サラビッツさんと近著
(本人のツイッターから)

 サラビッツさんによると、オレゴン州では麻薬や覚醒剤を個人が少量使うことは犯罪ではなくなりました。交通事故とおなじで扱いで、罰金100ドルを払えばでそれですみます。その罰金も、本人が更生のための健康相談を受ければ免除される。
 中心にあるのは、薬物依存は禁止と処罰では解決できない、本人自らが回復への道に向かうべきで、社会はそれを助けるという考え方です。
 2年前、住民投票でこの方針が決まり、オレゴン州は去年、アメリカで最初に「麻薬使用を犯罪として罰しても効果がない」と認め、立法化した州になりました。

 薬物の過剰摂取で去年10万人が死んだアメリカでは、禁止と厳罰では対処できないことが、ようやく一部で理解されるようになりました。このため処罰より依存症者のいのちを守る「ハームリダクション」という考え方が進んでいると、このブログでも何度か書きました。オレゴン州の動きは、ハームリダクションよりさらに進んだ包摂的なアプローチです。すでにマサチューセッツ州やバーモント州がこれに習う動きを見せています。

合成麻薬フェンタニル (iStock)

 サラビッツさんは、オレゴン州の改革はポルトガルを見本にしたといいます。
 薬物依存対策の最先端、ポルトガル。ここでは2001年に麻薬を合法化し、処罰から回復への転換をとげました(Nicholas Kristof, October 1, 2017, The New York Times)。その成功例があったから、オレゴンの改革は可能だったといえるでしょう。

 こうしたさまざまな取り組みを見ていると、薬物依存という、人間社会のどこにでもある普遍的な現象を通して、それぞれの社会のあり方が浮かびます。権威的な社会と、当事者本人の生と、どちらから出発するのか。
 日本の場合は、麻薬はおろか大麻ですら厳罰です。社会の権威が強すぎて当事者本人の生はほとんどかすんでいる、ということではないでしょうか。
(2022年2月1日)