キムチは瓶で

 ほんとにおいしいキムチは、瓶(かめ)で作る。
 でもなぜ瓶がいいのか。アメリカの専門家がこのほどそのメカニズムを解明しました。どうやら土でできた瓶の材質が、発酵に最適の環境を作るようです(The best kimchi is made in earthenware pots. Science reveals why. April 7, 2023. The Washington Post)。

 キムチ作りはむかしから、オンギと呼ばれる瓶が使われてきました。土で作った大きなツボです。オンギで作ったキムチは、酸度が高く抗酸化物質が豊富で乳酸菌がたくさん含まれていて味がいい。でもなぜそうなるか、メカニズムはわからなかった。
 これを解明したのが、ジョージア工科大学のデビッド・ウーさんらのチームです。ウーさんたちは、オンギには細孔、微細な穴が無数にあいていていて、これがカギだと考えました。

キムチを漬ける”オンギ”

 電子顕微鏡やCTスキャンを使い、微細な穴でどのようなドラマが起きているのかを流体力学の手法で調べます。そしてわかったのは、細孔にキムチの水分がしみ通り、外側に“塩の花”を作ること、発酵でできた炭酸ガスが穴から適度にもれてゆくことでした。こうしたしくみでオンギ内部の乳酸菌が活発に働くようになり、抗酸化バクテリアもたくさんできる。研究成果は学術論文として発表されています。

 だからキムチを作るときはオンギを使いましょう。
 となりかねないけれど、そんなことをいわれても困りますよね。あの重くてがさばって壊れやすいオンギは、いまの台所ではもう使えない。
 アメリカでも韓国でも、ますます多くの人が工場でできたキムチを買うようになりました。自分で作る人も、いまではガラスやプラスチック容器を使います。それを冷蔵庫に入れて作ると、オンギほどの味ではないけれどそこそこの仕上がりにはなる。アメリカでキムチを作る韓国人は、そのための「キムチ冷蔵庫」を持つ人が増えました。暮らしの知恵ですね。

 でもそういう韓国人のひとりが、母親のキムチがなつかしいといったそうです。土に埋めた瓶から取り出した、あのキムチが。
「発酵が進んでプチプチと刺激がある、ソーダ水飲んだときの食感、あれです。買ったのだと酸っぱいだけで、あのテーストがない」
 その感覚、よくわかります。
 小さいころぼくは、白菜漬けは自宅の物置にある大きな木の樽に漬けたのを食べていました。樽から出したての、あのシャキシャキはもうどこにもない。買った白菜漬けはみんなしんなりしおれている。白菜漬けとキムチは、木の樽とオンギが生み出す魔法の過程。いまはもう夢まぼろしです。
(2023年4月10日)