クジラのために

 また現れました。ロブスターを食べるな、という人たち。
 資源保護のためかと思ったら、そうではない。ロブスター漁の捕獲かごにつけるロープにクジラがからまるから、クジラ保護のためにロープを使うなというのです。そうやって獲られるロブスターを、消費者も食べないでほしいということらしい。
 なんだか八つ当たりのようだけれど、クジラが死んじゃうからといわれればアメリカの消費者は考えるでしょう。ロブスターはますます食べにくくなります(To Save Whales, Don’t Eat Lobster, Watchdog Group Says. Sept. 13, 2022, The New York Times)。

 広く魚介類の動向を調べている民間団体、シーフード・ウォッチによれば、ロブスター漁による危険が指摘されているのはセミクジラの一種、タイセイヨウセミクジラです。このセミクジラはすでに個体数が数百にまで減り、このままだと近い将来絶滅の恐れがある。そのセミクジラを、ロブスター漁のロープにから守りたいというのです。

 この訴え、じつはちょっと危ないところがある。
 ロブスターとロープ、クジラの関係がいまひとつはっきりしないので。実際にロープにからまって死んだセミクジラがどれほどいるのか、ロブスター漁をやめればクジラは復活するのか、そのへんが明確ではない。
 そう思って読んでいたら、だんだん「ほんとのねらい」が見えてきました。
 シーフード・ウォッチは、科学的な事実を訴えるのではなく、ロブスターを、そして魚介全般を食べる消費者に、自分が食べているものについて「考えてほしい」と訴えている。
 ただ「クジラを守れ」というより、ひとつレベルの高い訴えです。

タイセイヨウセミクジラ (iStock)

 長いロープを使ってロブスターを獲る漁は、アメリカ東海岸を中心に200年もつづいてきました。漁獲量や漁期を調整するなど、さまざまな規制がある。そういう法規制を守って漁師は漁を行ってきました。でもロブスターはもはや持続可能な食品ではない。それどころかクジラにまで危険を及ぼしている。

ロブスター漁のかご (Pixabay)

 消費者に対して、そのロブスターがどのように捕獲され、どのような経緯でレストランのテーブルに乗るかを考えてほしいと、シーフード・ウォッチはいっています。そういう事情まで知ろうとする消費者は少ないから、「そのおいしそうなロブスターの陰で、クジラが死んでるかもしれませんよ」と示唆する。
 そういうことなら考え直そうという人が、ちょっとは増えるかもしれません。
 少なくともぼくは、もうロブスターをあきらめようと思います。ほんとの理由は高くて手が出ないからだけれど、「クジラ保護のため」っていえば格好がつきますからね。
(2022年9月27日)