グリーン葬

 埋葬について、このブログで何度か取りあげました。
 なるべく環境に調和した埋葬です。南アフリカの「アクア葬」だとかヨーロッパの「キノコ製の棺桶」、アメリカの「遺体をコンポストにする」埋葬、などなど。いずれもエコではあるけれど、火葬になれたぼくらから見ると“過激”です。
 でもこれならいいか、と思える方法がありました。
 ただの土葬。それも棺桶を使わず、墓石も建てない。遺体を布でくるみ土に埋める、「グリーン葬」と呼ばれる簡素な方法です。これをぜひ日本でも実現したい(To help Earth’s future, people are getting buried like it’s 1860. March 28, 2023. The Washington Post)。

 グリーン葬を進めているのは、メリーランド州のセレニティ・リッジをはじめとするいくつかの墓地です。牧草地のような波打つ丘が墓地になっている。ここに埋葬される人は布に巻かれ、あるいは柳や竹のような土に分解される棺に入れられ、ただ土を掘ったところに安置されます。あとは土をかぶせ、場所がわかる小さな石板が置かれるだけ。遺体はやがて棺とともに土に還る。盛り土は腐食が進むとともにへこみ、平らになります。百年経てば、あとには草原に一片の石しか残らないでしょう。
 むかしの埋葬とおなじですと、グリーン葬を進める人たちはいいます。

 むかしの土葬が、いまは別の意味を持っている。
 グリーン葬は、豪華な葬儀に対するアンチテーゼです。アメリカの一般的な葬儀は、遺体を大量の化学薬品で防腐処理し、頑丈な木や金属の棺に入れ、コンクリートの地下室に入れる形で埋葬する。土をかぶせたら壮麗な墓石を立てる。そのために120キロもの二酸化炭素が排出されるといいます。100年前のご先祖様はそんな埋葬をしなかった。

 ぼくがとくに気に入ったのは、グリーン葬の簡素さもさることながら、そこには「死後の平等」の考え方があることです。
 ユダヤ教やイスラム教には、人が亡くなるとただちに布にくるみ土葬にすべしという教えがある。だから防腐処理などしないことが多い。豪華な葬儀は不公正だという考え方があり、そういう人びとがグリーン葬を求めているともいいます。国葬なんていうもののむなしさの対極にある考えです。

 グリーン葬は従来の墓地のイメージを変えるでしょう。埋葬が行われたあと、しばらくは盛り土が墓の目印になる。けれど年月とともに平らになり、墓は消えてただの草地になる。そのころにはもう、故人の親戚縁者も埋葬地を訪れる人もいなくなるでしょう。残るのは波うつ丘と、周囲の森、青い空。
 墓石は残らない。記憶だけが、余韻のように残ります。
(2023年4月4日)