ゴミゼロめざして

 日本に「ゴミゼロ」をめざす有名な町があります。
 徳島県上勝(かみかつ)町。谷深い山奥に伸びる、人口1500人の町です。
 この町が、2030年までに地域から出るゴミをゼロにするという目標を立てました。いま目標の80%まで達成しているそうです。この先進の取り組みをワシントン・ポストが紹介し、世界的に有名な「持続可能を目ざすコミュニティ」となりました(Postcards from Kamikatsu, Japan’s ‘zero-waste’ town. April 27, 2022, The Washington Post)。

 たまたま徳島に行く用事があったので、この上勝町を見てきました。
 わずか1時間の滞在だから、たしかなことはいえない。でもこの町はしっかり、したたかに「野望」の実現に向かっている、これは一時の思いつきではないと思えました。

 中心となっているのは「ゼロ・ウェイストセンター」と呼ばれるゴミ処理センターです。ウェイスト、すなわち廃棄物をゼロにするところ。ここでゴミを45もの種類に分別し、再利用を図っている。ぼくが行ったときも町民が三々五々、さまざまな分別ゴミを持ち込んでいました。
 ゴミを廃棄物にしない。徹底的に再利用する。その現場です。

 ゴミゼロは、しくみより何よりいちばん大事なのはおおもとの理念でしょう。
 調べると、ぼくの目には町役場でゴミ担当だったひとりの女性職員が浮かびました。東(あずま)ひとみさん、1959年生まれ。彼女はゴミ対策よりももっと先の、「生き残れる町づくり」を目ざしたと広報冊子「くるくる」に書いてある。それを読んで、おお、それなら大丈夫だと感じたものです。

 生き残れる町をつくる。
 きっと、過疎の町が生き残るために何をすればいいか、自分のすることは何か、彼女は考えに考えたのです。たんにゴミをなくそうというのではなく、ゴミを大事にすること、それが人を大事にする生き方につながると直感したにちがいない。残念ながら彼女はこころざし半ばで他界しました。けれどその理念を引きつぐ町長や仲間がいて、それがいま、世界に冠たる「ゴミゼロ」を目ざす町となっている。

ゼロ・ウェイストセンター

 広報冊子には東さんが、「生き残れる町」は持続可能なだけでなく、「世界中から人が集まる場所」になるといったことが書いてある。また「上勝をとがらせるほど、自分の強みになる」ともいっていたと。
 なんとすばらしい。
 そういうメインストリームからはハズレた女性が、上勝町だけでなくもっともっと出てきてほしいものです。
(2022年6月14日)