サケが消える前に

 カリフォルニアではことし、全面的にサケ漁が禁止される見通しです。サケが激減しているので。サケは日本でも獲れなくなっているけれど、緊急事態への取り組み方は日米でちがいます(California Salmon Stocks Are Crashing. A Fishing Ban Looks Certain. April 3, 2023, The New York Times)。

養殖されるサケ
(Credit: USFWS Pacific, Openverse)

 カリフォルニア中部に遡上するサケは、NOAA(米海洋大気庁)によれば1995年には100万尾以上でした。それがことしの予測値は17万尾以下。年々サケが減っていることはわかっていましたが、これは悲劇的と形容される事態です。
 先住民などに許可されてきたサケの漁獲は、ここ数年目立って低下しました。それがことしは制限されるだけでなく、全面禁止になりそうです。先住民のひとりがいっていました。
「おれたちはすでに言語を失った。宗教も失った。こんどはサケを失うんだ」
 サケ漁で暮らしてきた先住民は、災害救助の発動を求めています。

サケの養殖事業
(Credit: USFWS Northwest, Openverse)

 サケの受難は、米西海岸では200年前からはじまりました。
 最初に起きたのはビーバーの消滅です。この地にやってきた白人が、毛皮をとるためにビーバーを獲りつくし河川にあるビーバーのダムが消えた。サケの格好の繁殖場だったビーバー・ダムがなくなり、サケも激減したそうです。
 ついでゴールドラッシュ。金鉱探しで川が破壊されてしまった。
 そしていま農業。巨大ビジネスが河川の水を広大な農地に引きこんでいる。サケ漁師と農業資本の水争いです。でも無力な漁師が勝てるはずもなく、サケは生息地を奪われつづけている。
 これにとどめを刺すように起きたのが、地球温暖化でした。

キングサーモン
(Credit: USFWS Northeast, Openverse)

 こんな末世じゃサケも消える。あきらめるしかないと思っていたら、カリフォルニアではサケの生息環境を取りもどす新しい動きが起きていました。
 たとえば北カリフォルニアのクラマス川では、なんと水力発電所4か所を取り壊し、サケが遡上できるようにする計画が進んでいます。
 広大な水田をサケの繁殖に使おうというアイデアもある。川とちがって水田で育つと、サケは餌にめぐまれ10倍も早く大きくなるとか。そうして海に出れば生存率は格段に上がり、水田もサケがいることで栄養豊富になる。
 そういう、新しいサケとのかかわり方があるんじゃないか。

 サケをめぐる漁民と農民の水争いは、古いしくみのなかで起きることです。そのしくみ自体を作り直せばいいと、自然保護団体の活動家は考えている。そこに行政が力を合わせる。サケの悲劇をめぐり、カリフォルニアでは日本とちがった力学が働いています。
(2023年4月5日)