ドネツ川の惨劇

 これはウクライナ戦争の転換点ではないかという気がします。
 先週、ウクライナ東部で起きたロシア軍渡河作戦の失敗です。ロシア軍の400人が死傷し、一大隊が壊滅する大損害でした(May 13, 2022, BBC. May 15, 2022, The New York Times)。
 ウクライナ国防省の撮影した映像が、欧米のメディアに載っています

ウクライナ国防省発表写真

 この戦闘は先週、ドネツク州ボロホリウカ近くのドネツ川で起きました。
 ウクライナ側の発表によれば、ロシア軍の渡河作戦は5月8日にはじまり、11日が3度目の試みでした。ウクライナ軍は最初の2度の攻撃を、ポンツーンと呼ばれる仮橋を破壊して食い止めました。しかし3度めは「ワナをしかけ」、渡河作戦が進んだところで反撃したようです。

 ニューヨーク・タイムズがISW(戦争研究所、ワシントン)の推定として伝えるところによれば、ロシア軍は作戦に投入された兵士550名のうち485人が死傷し、戦車や装甲車80両を失う大損害でした。

 渡河作戦は危険が多く、ロシアが強行したのはそれだけの事情があったからでしょう。それは東部戦線のウクライナ軍を、北と南からはさみ撃ちにするためだったはずです。しかしウクライナの頑強な抵抗と巧妙な作戦で、ロシア軍は敗退しました。
 アメリカ、イギリスの情報筋はここ数日、ロシア軍が「勢いを失っている」という評価を出しています。

 ウクライナ軍は4月はじめキーウのロシア軍を撃退し、今月になって第二の都市ハルキウからもロシア軍を撃退しました。ロシアは主力を投入したはずの東部戦線でも大きな戦果をあげていません。
 ゆっくりと、戦況は変わっています。

破壊されたロシア軍車両
(ウクライナ国防省発表)

 興味深いのは、「ドネツ川の惨劇」がロシア国内のSNSに与えた衝撃でしょう。
 これまでロシア軍をたたえ、ウクライナ軍の「蛮行と卑劣」をあおってきた人気ブログのいくつかで、はじめてロシア軍に対するあからさまな批判が出てきました。「ロシア軍司令部のバカさかげんにあきれる」「これでも“予定どおり”だというのか」「軍事作戦への疑問を何百万ものロシア人が持つようになった」などの書きこみが見られると、タイムズは伝えています。

 それですぐにロシア社会に変動が起きることはないでしょう。
 けれど後世、「潮目が変わったのは、ドネツ川の惨劇から」というようになるのではないかとぼくは見ています。
(2022年5月16日)