ノルウェーのワイン

 気候変動というのはこんなところにも影響するのかと思いました。
 ノルウェーでワインができるようになったのです。
 ワイン業界のこれまでの常識は、ワインは北緯30度から50度までというものでした。日本付近でいえば鹿児島の南からサハリンの真ん中あたりまで、ヨーロッパでいえばエジプトの北からドイツ北部まで。それより北は寒すぎてブドウづくりには向かなかった。
 ところがいまはもう北緯61度のノルウェーの村でもブドウが育ち、ワインがつくられています(Climate change: ‘We’re making wine in Norway.’ April 17, 2022, BBC)。

ソグネフィヨルド(ノルウェー)

 ノルウェー南部の有名な観光地、ソグネフィヨルドの近くでブドウを栽培するビヨルン・ベルグムさんは、むかしはフィヨルドが凍ったけれど、もうそんなことはないといいます。
「雨だって降るときはずっとたくさん降るし、気温も前よりずっと温かい」
 おかげで北欧でもブドウがつくれるようになりました。寒さ対策の苦労はあるけれど、利点もあります。夏の明るい時間が長いこと。
「十分な光が強みです。急斜面だからフィヨルドが反射する光もふんだんにえられる」

 ビヨルンさんのワインは、ノルウェーで賞を取るなど高い評価をえています。でも国外ではブラインド・テストをしてもらうしかないと笑います。
「ノルウェーのワインだと知ったら、誰もテイスティングしないから」

 この半世紀、ワインづくりは劇的に変わりました。50年前にカリフォルニアのワインを飲んで、アメリカでもワインができるんだと驚いたことを覚えています。40年前にチリのワインを飲み、世の中変わったと思いました。ワインはもうフランス、イタリアだけのものではないんだと。

 ノルウェーからしゃれたワインが出てくるなら手を伸ばしてみたい。
 そう思う一方で、それでいいんのかと不安にもなります。南の方では温暖な気候が失われているだろうから。

 フランスの銘醸地、ボルドーの専門家はいいます。気温上昇でワインのアルコール度はこの30年で2度上がった、香りが失われているのではないか。いまから10年後に飲めるワインは、かつての“偉大なワイン”のようにはならない。

 どこかがよくなればどこかが悪くなる。
 プラスマイナスゼロならいいけれど、どうもそうではない。全体は荒れる一方なんじゃないか。その重苦しさを忘れるために、窓を開けてワインを。
(2022年4月18日)