ハゲタカを尊敬しよう

 ハゲタカにはいいイメージがありません。
 ハゲタカが舞っていると、その空の下には死がある。死の予兆、最悪の運命を告げる死神の使い。ハゲタカファンドとかハゲタカジャーナルなんていうと、強欲や悪徳のイメージが伴います。
 そんなハゲタカのイメージは変えなければならない。じつは自然環境で大事な役割を果たしている益鳥だから。その役割でいちばんわかりやすいのは狂犬病の予防だと聞いて、え?と思いました(Why we should value scavengers. 9th December 2022, BBC)。

 ハゲタカがなんで狂犬病を防ぐのか。
 特別な免疫力があってウィルスを防ぐのかと思ったら、そうではない。
 ハゲタカは自然界で死亡した動物の肉を食べ、片付ける掃除屋です。ところがその数が近年、急激に減りました。1990年代のインドには1億から1億6千万羽のハゲタカがいたのに、97%が2007年までにいなくなってしまった。
 そして起きたのが野犬の繁殖です。
 放置された牛の屍などを、ハゲタカに代わって野犬が食べるようになり急増した。増えた野犬に噛まれる人も増えた。イギリスのバース大学の調査では、ハゲタカの激減で野犬に噛まれる事例が4千万件近く増え、その結果4万7千人が狂犬病で死んだと推定されています。
 インドではこの20年狂犬病が増えつづけてきたけれど、その大きな原因は野犬の繁殖であり、元をたどればハゲタカの減少だったというわけです。

 なぜこんなに急にハゲタカが減ったか。
 少なくともインドでは、その原因が牛の鎮痛剤だったことが判明しています。広く使われていた鎮痛剤の成分が、ハゲタカにはきわめて強い毒性を発揮していた。このため死んだ牛の肉を食べたハゲタカが腎臓の傷害でどんどん死んでしまったということです。
 イギリスとインドの研究者たちは、ハゲタカがいなくなったことでインドの経済損失はGDPの3.6%にも達すると推定しています。やや牽強付会の研究という気もするけれど、ハゲタカは従来のいまわしいイメージとは逆に、それほど深く人間界にも貢献しているということでしょう。

 ぼくもアメリカに住んでいるころ、よくハゲタカを見かけました。道路上で、車にひかれたリスの死体などむさぼっている姿を、「忌まわしいやつら」とステレオタイプで見ていたものです。
 そういう見方を、いまや反省しなければなりません。
 そもそもハゲタカって名前が、ハゲに対する蔑視を含んでいる。
 じつはとても役に立つトリだったんですね、あなたは。
(2022年12月13日)