ハワイのさざなみ

 コロナ以前、ハワイには年に1千万人の観光客がありました。
 そんなに来なくていい、600万人で十分だという声が、ハワイの観光産業のなかから出ているそうです。
「持続可能」なハワイ観光のために。
 ハワイの、ことに先住民がそういう声をあげていることには深い意味があると思いました(In Hawaii, the Search for Sustainable Tourism. August 14, 2022, The New York Times)。

 声を上げたのは、ハワイ先住民としてはじめてハワイ観光協会の会長になったジョン・デフリースさんです。
 デフリースさんの母親は、1940年代に学校でハワイ語をしゃべるのを禁止されました。日本でもオーストラリアでもカナダでも、どこでも少数民族が押しつけられた境遇です。デフリースさんはいいます。
「皮肉ですよね。いま彼女のひ孫がおなじ学校に通ってるけれど、ハワイ語が必修科目です」

 ワイキキで生まれ育ったデフリースさんは、子どものころ毎日浜辺に釣りに行きました。浜は観光地ではなく、食べ物の場所だったのです。
「先住民はよくわかっていました。太平洋の真ん中で生きのびるにはどうすればいいか。島のなかにあるものだけで暮らさなきゃいけないって」
 持続可能とはどういうことか、デフリースさんは先住民として知っています。

 2019年、ハワイには史上最高の1040万人の観光客が来ました。それが1年後の7月、コロナで実質ゼロになりました。
 人であふれていた観光地に誰もいないのを見て、デフリースさんはどこかうきうきした気分になったそうです。経済的には大打撃なので、それがいつまでもつづくものでないことはわかっていた。でもすばらしかった。

 ハワイの観光が復活しなければならないことは、デフリースさんもわかっています。でもこれからはもっと“ハワイらしさ”を求めてもいいんじゃないか。1千万人はやはり多すぎる。600万人でいい。持続可能の真ん中に先住民文化があってもいい。
「文化って、ごまかすことができないんですよ」
 そのごまかすことができないものを、観光客とともにわかちあいたい。きっとデフリースさんはそう思っているのでしょう。フラダンスを踊ればハワイってことではなく。

 あえていうなら先住民の“つつましさ”をしのびこませる。そんなことかもしれないと、ぼくは彼のことばを読んで思いました。
(2022年8月19日)