ヤギの効用

 ヤギは粗食に耐え、荒れ地で育ち、毛や乳や肉のもとになる、けなげな家畜です。
 そのヤギが山火事まで防止してくれることがわかりました。
 森の下草を食べてくれるからです。下草が繁った森は山火事が起きると燃えやすい。それを事前にヤギが食べてしまえば延焼しないということで、実際に助かったコミュニティがありました(Goats with big appetites are front-line workers in fire prevention. June 21, 2022. The Washington Post)。

(資料映像)

 ヤギに救われたのは、カリフォルニア州北部の西サクラメント市です。
 ここで5月20日、山火事が起き、郊外の250戸が延焼の危険にさらされました。しかし住宅街を取り囲む森の途中まで来たところで火は勢いを失い、そのまま鎮火したということです。
 ヤギのおかげだと、市の職員ポール・ホスレーさんはいいます。
「みんなじつによく働いてくれた。下草をすべて食いつくしたんだから」

 働いたのは市に“雇用”された400頭のヤギ。旺盛な食欲で、住宅街を囲む森の下草を1日2エーカー(800平方メートル)も食べてくれました。おかげで“防火帯”ができ、山火事の延焼を防げたということです。
「あいつらが仕事すると、あとは月の砂漠みたいに何も残らない。環境にもいいし、みんなヤギが大好きだよ」

 もともとヤギは雑草対策に広く使われてきました。
 森に放せば、どんなところにも入りこんで草を食べる。草刈り機が使えないところでも、固い草でもよろこんで食べる。おまけに糞は森の栄養になります。この力を山火事対策に生かそうというアイデアは、西サクラメント市で2014年から実行されてきました。
 ヤギ部隊の投入にかかる費用は年に15万ドル、2千万円くらいです。それで山火事が防げるならまったく安いもの。人間が下草を刈ったらとてもこんな費用ではすみません。

 こうしたヤギによる山火事対策は、いまやカリフォルニアだけでなくオレゴンやニューメキシコなど、12の州に広がっています。そんなことまでしなければならないほどに、近年のアメリカの山火事はすさまじい。もとはといえば人間がつくり出した温暖化のせいですが。

 多くの日本人にとって山火事は差し迫った危険ではないから、ピンとこないかもしれません。でも山火事以外にもヤギの活躍の場は広い。雑草対策にしても、除草剤をまいたり草刈り機を使うより、ヤギにお願いしたほうがよほどいいんじゃないでしょうか。

 実用もさることながら、そこにヤギがいるというのが大事なことだと思います。
(2022年6月24日)