ヤクのいる教室

 映画「ブータン 山の教室」を見たことをこのブログに書きました(2021年4月22日)。また見たい、とてもいい映画です。それがこのほどアカデミー賞にノミネートされました。国際長編映画賞の候補作、5本のうちのひとつです。

 ブータン映画がアカデミー賞で名前があがるのははじめてとのこと。すなおによろこびたい(‘Improbable Journey’: How a Movie From Tiny Bhutan Got an Oscar Nod. Feb. 12, 2022, The New York Times)。

 38歳のブータン人、パオ・チョニン・ドルジ監督の初の長編映画は、標高5千メートル近いブータンの秘境、ルナナ村で撮影されました。英語の題名は「ルナナ:ヤクのいる教室」。村にただひとつの学校、というか掘っ立て小屋が舞台で、教室のなかではヤクが飼われていました。

ヤク(資料映像)

 総予算30万ドル(3500万円)の超低予算映画。出演したのはほとんどがルナナ村のおとなと子どもです。映画なんて見たこともない子どもたちの、演技ではない自然体が輝いていました。

 なんでこの映画がよかったか。
 それはきっとブータン奥地のテレビも電気もスマももない村での暮らしが、ものにあふれたぼくらの暮らしよりずっと魅力的だったからでしょう。
 魅力は、未開の人びともけっして先進国の人びとにおとらないという人類学の教えから来るものだけではありません。映画の随所に見える仏教の影が、ブータンの人びとはただ厳しい自然を生きのびているのではない、ぼくらにない精神性があるという畏敬の念を抱かせたのだと思います。

 アカデミー賞の選考委員がそう考えたかどうかはわからない。でも彼らがこの映画を評価し、日本の映画「ドライブ・マイ・カー」などとともに長編映画にノミネートしたのは、アカデミー賞はハリウッド的な作品に注目するだけではないということでしょう。
 3月27日の授賞式が楽しみです。

 なおことしのアカデミー賞、助演男優賞に史上はじめてろう者がノミネートされました。
 映画「CODA」(日本名「コーダあいのうた」)のトロイ・コッツァーさん。自然なアメリカ手話と、演技では決して再現できない立ち居振る舞い、ろう文化が強く印象に残りました。

トロイ・コッツァーさん(左から2人目)

 ヒマラヤの小国ブータンがあり手話とろう文化があり、アカデミー賞はさまざまな批判を受けながらも多様化を反映しています。
(2022年2月14日)