ヤマアラシ論

 まず海上封鎖、ついでミサイル攻撃。
 台湾海峡の緊張が高まるにしたがい、武力紛争のシナリオが現実味を増しています。いざ戦争となったら、日本の米軍基地から台湾への武器補給が行われる可能性は高い。そうなれば日本も紛争の当事国になると、アメリカの議論で指摘されています(U.S. Aims to Turn Taiwan Into Giant Weapons Depot. Oct. 5, 2022, The New York Times)。

 アメリカには台湾防衛をめぐって多くの議論があります。いまその中心は台湾の「ヤマアラシ化」でしょう。
 かつて台湾は、戦車や戦艦のような大型の武器をそろえようとしました。けれど弱小な台湾がいくらがんばっても、強大な中国にはもう対抗できない。だから中国が攻めてきたら、勝つのではなく多大な損害を引きおこすことを考える。それは小規模で移動可能な、多数のミサイルを全土に配備すること、全身ハリだらけのヤマアラシになることです。

 とはいえ、ヤマアラシは長期戦に耐えられません。海上封鎖がつづけば台湾は崩壊する。どこかの時点で米軍が介入することが前提です。
 それまでのあいだ台湾は自力で防衛しなければならない。ヤマアラシのハリを中国に向けつづけなければなりません。そのためには、ハリとなる移動式の対艦ミサイルや、ジャヴェリンやスティンガーのような携行式ミサイルの大量の備蓄が必須です。兵器だけではなく、燃料や戦略的な食料の備蓄も欠かせない。そうした備えをどう進めるか、どこにどう保管し運用するかが、アメリカと台湾のあいだで議論されているといいます。

台北市

 議論の詳細はわからない。
 けれどアメリカは、台湾侵攻が海上封鎖からはじまると見ています。そうなると米軍は中国との直接対決を避けながら、空や海のどのルートから台湾への補給ができるかを考えるでしょう。有力な候補が日本やグアムの米軍基地からの補給です。でもそんな行動を中国が容認するわけはない。軍事専門家はいいます。
「中国が封鎖を実施するか、それを破るか。そこで米中がどこまで危険をおかし、その危険に耐えつづけるかだ」
 米中のにらみ合いか、小競り合いか。それとも急激なエスカレーションか。

 そうした議論のどこにも日本の声が聞かれません。では傍観するのかといったら、そうもいかないと思うけれどどうなんでしょう。心配なのは、何の議論もないまま日本が紛争に巻き込まれていくことです。議論を刺激するためにも、日本はいまのうちに「民主化された台湾」を支援するという意志を明確にしたらどうでしょうか。中国の不興をかってもいいから。
(2022年10月20日)