ロシアは停滞か

 ロシア軍は基本的に“足踏み”状態です。
 ペンタゴンはロシア軍が“貧血状態”だといい、イギリス情報筋はロシア軍が戦闘能力をかなり失っていると分析しています。ジョンソン首相はウクライナ議会への、外国首脳としては初のビデオ演説で「あなた方はプーチンの不敗神話を粉砕した」と称賛しました(Seeing a Stalled Russia, West Adds Support and Arms for Ukraine. May 3, 2022, The New York Times)。

ウクライナ議会のジョンソン首相演説(3日)

 ロシア軍停滞、西側にはわずかだけれど余裕。これが現状でしょう。
 4月18日にロシアが東部からの大進撃を開始したとき、ウクライナ戦争は今後数週間がヤマといわれました。それから3週間、戦局に劇的な変化はない。ロシア軍は相変わらず兵站(物資補給)がうまくいかず、兵士の士気は低い。ウクライナ軍は西側の155ミリ榴弾砲など重火器を得て、ロシア軍を追い返すことはできなくても抵抗しつづけることができる。
 こういう情勢のもとで、西側諸国は余裕を取りもどしたようです。

 ぼくがおや、っと思ったのは、「勝利」ということばが出てきたことでした。それもアメリカ議会下院の議長、ナンシー・ペロシさんからです。

キーウ訪問のペロシ米下院議長(4月30日)

 ペロシ議長は4月30日、仲間の議員数人とウクライナの首都キーウを訪問しました。ゼレンスキー大統領と会談したあと、ポーランドで記者団にいっています。
「アメリカはウクライナを支持する。私たちは勝利がえられるまでウクライナを支援する」
 ペロシ議長の前にキーウを訪問したアメリカのオースチン国防長官も、こういっています。
「われわれはロシアを、ウクライナ侵略などを起こせなくなるまで弱体化させたい」

 ウクライナが勝つまで支援するとか、ロシアを弱体化させるというのは、戦争がはじまった2月末には考えられない発言でした。それまでアメリカは「主権と独立を守る」というだけでした。勝てるというニュアンスはなかった。ゼレンスキー大統領が亡命政権をつくったら支援するという含みすらもたせていた。
 それがいまや「勝利」への言及。いつどんな形での「勝利」かが問題とはいえ、アメリカ政治家の意識にこのことばがのぼっているということです。

(ゼレンスキー大統領 Facebook から)

 とはいえいまの時点で、ウクライナが東部、南部のロシア軍を撃退できる見通しはありません。
 その間に犠牲者は増えつづけます。暮らしは破壊され、市民は逃げまどう。それでも「ロシアに支配されたくない」というウクライナ人の思いは強い、らしい。
 また大多数のロシア人のプーチン大統領支持は揺るがない、らしい。
 悲惨は長期化するとしか見えません。
(2022年5月4日)