ワイン瓶を返そう

 ワインの瓶が地球を傷めている。
 何とかしようとニューヨーク・タイムズのワイン記者、エリック・アシモフさんが訴えています。瓶をやめて紙容器にするとか、瓶の「使いまわし」などの対策を進めるべきだというのです。ワイン飲みとしては聞き捨てなりません(The Problem With Wine Bottles. By Eric Asimov, Aug. 4, 2022, The New York Times)。

 このブログで一度、「重たいワインの瓶はやめよう」と書きました(2021年11月10日)。一部のワイン愛好家はいいワインほど重厚な瓶に入っていると思いこんでいるようですが、まったくの誤解です。ガラスが厚く重たい瓶は、つくるのも運ぶのも余分なエネルギーを使い、地球温暖化の悪役になる。
 こんど出てきたのは重たい瓶をやめるのではなく、瓶そのもののを見直そうという、よりせっぱつまった主張です。

 ガラスを紙にすればいいといっても、紙容器のワインを消費者はどうしても「安かろう悪かろう」のイメージで見てしまう。いちど定着した偏見は変わるまでに時間がかかるという問題があります。
 いまは紙パックにくらべ、ガラス瓶の方が圧倒的に大きな問題でしょう。
 そこを真剣に考える生産者やレストランが目を向けるのは、瓶の「リサイクル」ではなく「リユース」、あるいは「リターナブル」。すなわち飲み終わったワインの瓶を回収し、洗ってきれいにし、またおなじワインを詰めて出荷するやり方です。ひとつの瓶を何度も使うので、いちばん炭酸ガスを出さない、地球を傷めない方法です。

 ところがアシモフ記者によれば、幾つものワインメーカーが2010年ごろからリユースを進めてきたけれど、どうもうまくいかない。要するに消費者が瓶を捨ててしまうのです。
 だんだんわかってきたのは、ただ返してくれといってもダメ。空き瓶を取っておく場所、運ぶしくみ、集積場所、洗う工程など、返却品の流通インフラがなければならないということでした。きちんとした空き瓶の洗浄工場があるところや、ベルギーのように政府が補助金を出しているところは、比較的リユースが進んでいるといいます。
「地産地消」を進めるのもひとつの方法でしょう。リユースの瓶がどこでどう再利用されるか、その流れが地域のなかだと消費者は安心できる。メーカーもごまかしができない。

 あれこれ課題は多いけれど、ワイン・ボトルのリユース、紙容器への変換は避けて通れません。ぼくはこれからワインを飲んだあとで、瓶を捨てることに後ろめたさを覚えることにします。紙容器入りのワインも探すようにしましょう。
(2022年8月10日)