一瞬の陽光

 先週末、ずっとウクライナからの情報を見つづけました。
 ロシア軍が敗走したあと、ヘルソンに現れたウクライナ兵の姿にどれほど市民がよろこび、救われたかが映像によく表れています。
 たくさんの人が隠し持っていたウクライナ国旗を振りまわし、禁止されていた国家を歌いました。よく見ると兵士のひとりが胴上げされています。

(Credit: Bratchuk_Sergey, Telegram)

 スマホで自撮りしていた兵士が、すぐに興奮した市民にもみくちゃにされていました。「パーティ」はヘルソンだけでなくウクライナ全土でつづいています。
 ロシア軍に占領された8か月は苦難の日々でした。多くの市民が拉致され、暴行されたり殺されたり行方不明になっている。ロシアに連れ去られた子どもたちもいます。恐怖のロシア支配が終わり、救世主のようにウクライナ兵が現れたのだから、踊りたくもなるというものです。

(Credit: Bratchuk_Sergey, Telegram)

 動画の多くはウクライナ兵がスマホで撮影したものでした。それをウクライナ軍が入手し、SNSに出したのをニューヨーク・タイムズが紹介しています。上の映像はテレグラムというメッセージ・アプリにあったBratchuk_Sergey というアカウントのものでした。
 今回の戦争では、こういう兵士や市民の撮ったスマホ映像があふれています。

 BBCが12日に紹介した動画も、ウクライナ兵がたくさんの市民を背景に自撮りしているところでした。市民が殺到してウクライナに栄光を、と叫んでいる。兵士は、南部ウクライナの特産であり象徴でもあるスイカを持っていました。

(10月12日BBC)

 ヘルソンは1944年のパリだといった兵士もいます。第二次大戦でフランスがナチスドイツから解放されたときになぞらえて。ぼくは逆に、あのときのパリはこんなだったかと想像しました。
 ロシア軍から解放されたばかりの村では、ひとりの年老いた女性がウクライナ兵の前で泣いていました。
 あなたたちが来るのをどれほど待ちわびたことか。ようやく来てくれたんだね、ありがとう、ありがとう。そのひとことで、たとえ一瞬でも兵士はそれまでの辛酸を忘れたでしょう。

 彼らウクライナ兵は、ヘルソン解放までに多くの仲間を失いました。
 アメリカは先週、マーク・ミリー統合参謀本部議長が、ロシア軍の死者と負傷者は10万人を超すだろうといっています。おそらくウクライナ軍もそのレベルの被害を被っている。それ以外に民間人の犠牲者は推定4万人ともいわれます。
 それでもウクライナは止まろうとしません。ロシアに虐げられているウクライナ人がいるかぎり、止まることはできないという強い思いがあるのでしょう。
(2022年11月14日)