中毒の商人

 マリファナが各地で合法化されていると書きました(6月17日)。
 薬物に対して「禁止と処罰」しか考えない社会は息苦しい。何をどう使うかは一人ひとりが考えればいいことです。でもその薬物にはどんな危険があるかは知っておいた方がいい。アメリカでマリファナ中毒が増えていると聞き、そのことを思いました(Psychosis, Addiction, Chronic Vomiting: As Weed Becomes More Potent, Teens Are Getting Sick. June 23, 2022. The New York Times)。

 危険の中心は、死の商人ならぬ「中毒の商人」です。
 マリファナで金もうけにしようとする人びと、とくにマリファナを精製し、純度100%に近い「幻覚成分」を商品にして売る人びと。天然には存在しない、そういう異常に強力な化学物質を吸ったり食べたりしたらおかしくなる人がいて当たり前です。
 彼らの金もうけのしくみに引っかかった若者たちが、強い吐き気や意識の混乱などの精神症状を起こし、依存症、中毒になっている。

 これ、麻薬とまったくおなじです。
 ケシの実からできるアヘン、古典的な麻薬は、もともとそんなに強い薬ではなかった。それが精製され、高純度のコカインになって深刻な薬物中毒を引き起こすようになりました。
 いまではコカインの数倍、数十倍も強力なフェンタニルという合成麻薬が出回り、これがアメリカで年間10万人もの死亡者を生み出す原因となっています。

 薬物使用は強い方へ、より刺激的なものへと進む傾向があります。
 アルコールだって、ビールを飲んで依存症になったなんて聞いたことがない。ほとんどの人が焼酎やウオッカのような強い酒で依存症になります。
 マリファナも、おなじでしょう。
 乾燥した葉っぱをタバコのように吸引しているあいだは、大した害はありません。けれど「中毒の商人」たちは、そこからたちまち幻覚を起こす成分THC(テトラヒドロカンナビノール)の高純度の精製品をつくってしまった。それをスプレーにしたり食品添加物や化粧品に混ぜこんで売れば、「気分転換」に買う若者は後を絶たない。

マリファナ入りバター

 だから、最初から絶対禁止、使ったら厳罰、にすべきなのか。
 それとも自由な選択にまかせ、依存に陥った人をどう支えるかの問題なのか。
 ぼくらの社会のつくりかたです。一人ひとりはみな自由だという前提に立つか、それとも自由にしたら失敗するという前提に立つか。
 どっちがいいという前に、少なくとも一度ならず話しあいをしてみたいものです。問答無用という社会のあり方は、息が苦しい。
(2022年6月28日)