中立でいいのか

 永世中立というスイスの看板が揺らいでいます。
 どんな大戦が起きようと、戦争をしている陣営のどちらにも加担せず中立を保つ。それがスイスの国是でした。でもロシアのウクライナ侵略を見て若い世代が立ち上がっています。もう中立なんて許されないと(Ukraine war sees Swiss challenge their age-old neutrality. May 7, 2022, BBC)。

 スイスの永世中立は、1815年のウィーン会議でフランス、ロシアなど各国の承認をえて成立しました。中立のおかげで、20世紀の二度にわたる大戦の戦禍を免れています。スイス国民の中立への支持はつねに90%以上、中立はスイス人のDNAだとまでいわれます。

スイス連邦議会(iStock)

 その強い支持に亀裂が入っていると、政治記者のマークス・ヘフリガーさんはいいます。
「スイス人はいま、ウクライナのような戦争で中立はありうるか自問している。善人、悪人があまりにはっきりしているからだ」
 ロシアがウクライナに攻めこんだとき、スイスでも数千人がロシアへの抗議デモに参加しました。さらに別の数千人がウクライナ難民に住居を提供しています。
 こうした動きは、中立に対する見方が変化していることを示しているようです。

ロシア軍の攻撃を受けるウクライナの都市
(マリウポリ、3日。同市撮影ビデオより)

 第二次大戦中、スイスはナチスに攻撃されないよう、ドイツから逃れてきた何千人ものユダヤ人を国内に入れませんでした。南アフリカのアパルトヘイトに対しても制裁に加わらず、結果として人種差別政策に加担しています。その轍を踏んではならないと、多くの若者たちが思っているのでしょう。

 今回スイスは、国内で多少の議論はあったものの、欧米とともにロシアへの経済制裁に加わりました。「侵略者ロシア」に対しては中立を放棄したのです。NATOとの軍事協力を強化すべきだという意見まで出るようになりました。
 これでただちに中立を放棄することはないにしても、中立をめぐる議論はさらに活発になるでしょう。

 ロシアの暴走はドイツを覚醒させ、軍事費の飛躍的な増加に向かわせました。北欧のフィンランドとスウェーデンは中立を放棄し、NATOへの加盟に動いています。それに加えスイスまでもが揺れている。
 ヨーロッパの地殻変動はぼくらが思っているよりはるかに大きなものにちがいありません。
(2022年5月10日)