出遅れの台湾

 台湾はようやく軍備に力を入れはじめた。
 間に合うだろうか。もしかしたら間に合わないかもしれない。
 ワシントン・ポストのマックス・ブートさんが、最近台湾を訪問し、要人と語り合った結果をコラムに書きました。けっこう心配なトーンです( Taiwan is finally beefing up its defenses. Will it be too little, too late? By Max Boot. January 9, 2023, The Washington Post)。

 台湾のジョセフ・ウー外相は、先週ブートさんとの会談でいったそうです。
「台湾に対する軍事的脅威はきわめて深刻で、中国はいつ攻撃してくるかわからない。われわれは防衛力を強めなければならない」
 昨年以来、中国はひんぱんに台湾の防空圏内に軍用機を飛ばすようになり、まるで軍事侵攻のリハーサルをくり返しているかのようです。こうした緊張の高まりに、蔡英文総統は昨年末、軍事費を来年度13.9%増加すること、兵役期間を4か月から1年に延長することなど、いくつかの防衛強化策を発表しました。

軍備増強を発表した蔡英文総統
記者会見の背景映像(総統府、12月27日)

 ウー外相はいいます。
「台湾を防衛するのはわれわれの責務だ。もし台湾が自分たちの防衛に明確な意志を示さなければ、どんな国にも助けを求めることはできない」
 ロシアに侵攻されたウクライナは、生存をかけて本気で戦った、だから米欧もウクライナを支援した。台湾もおなじように本気にならなければ、アメリカの支援は得られないという認識です。

 政権トップは事態の深刻さを十分に認識している。
 けれど軍はどうか。国民はどうか。
 そこに懸念があるとブートさんは見ています。それをぼくなりに要約するなら、たしかに台湾は中国相手の「非対称戦」を戦う考えだ。けれど古い体質の台湾軍を、現代戦を戦うウクライナ軍のように変えるには6年かかるという専門家もいる。また国民もかなりの部分が、中国の武力侵攻はないと楽観している。このままでは中国の侵攻に耐えられないかもしれない。
 ブートさんはそうはっきり書いているわけではないし、そこまで失礼ではありません。でも、そう書きたいという思いが紙背ににじんでいると、コラムを読んでぼくは思いました。

 もうひとつ。
 ブートさんだけでなく、台湾を見る多くの関係者が紙背ににじませていることがあります。台湾有事は、日本が米軍にどこまで協力するかで大きく左右される。ところがこの“協力”についての実質的な議論はほとんどない。これが大きな不確定要素になっているということです。台湾は、有事に際して軍事介入するかどうか明確にしないアメリカの戦略的あいまいさと、日本のわけのわからないあいまいさの両方に挟まれている。
 アメリカはともかく、台湾は日本の支援をあてにできない。そう覚悟してはじめて「本気」になるのではないでしょうか。
(2023年1月13日)