和平のときか否か

 世の中、悪いことばかりでもない。
 アメリカの中間選挙で、共和党は圧勝できなかった。ウクライナではロシア軍が敗退している。どちらも最悪の事態は免れました。ホッとしたけれど、これからがたいへんです。
 ウクライナ戦争はいつまでもつづけられない。けれど和平への機運はどこにもない。この困難な現状を「外交を求める米軍部、抵抗するホワイトハウス」というニューヨーク・タイムズの記事が伝えていました(Top U.S. General Urges Diplomacy in Ukraine While Biden Advisers Resist. Nov. 10, 2022, The New York Times)。

 むかしの日本帝国は逆です。戦争行け行けと勇ましくプーチン的だった軍部。それに引きずられるだけの政府。いまのアメリカは、軍のトップが和平交渉を語り、ホワイトハウスが反対を向いている。成熟した民主主義、文民統制というのはこういうことなんですね。

奪還した南部で国旗を掲げるウクライナ兵

 ロシア軍は10日、ウクライナ南部のヘルソンから撤退すると表明しました。この敗退はプーチン政権にとって大打撃で、1991年のソ連崩壊以来の失敗だともいわれます。
 おなじ日、米統合参謀本部のマーク・ミリー議長は講演で「時機を逃してはならない」とのべました。和平交渉を考えるべきだといったのです。
 背景には、ウクライナもロシアも、軍事力でこの戦争を決着させることはできないという“戦争のプロ”としての判断があります。軍事に一区切りがついたいま、政治が乗り出すときではないか。
 バイデン政権はそんな気配を見せない。ウクライナが戦いつづけるかぎり最大限の支援をするといっている。また当のロシアとウクライナの主張には開きがありすぎて、和平交渉も第三国による調停もまったく糸口がありません。

 この機を逃すと、戦争は延々と長引いて何年つづくかわからない。
 その間にロシア社会が崩壊するか、それとも西側の結束が消えてふたたびロシアが暴発するか。
 見通しはつかないけれど、タイムズの記事で興味深かったのはいまはウクライナ国民が強硬になっているということでした。先月以降、ロシアはミサイルやドローンでウクライナの市民社会を攻撃しているけれど、厭戦気分は広がらず、むしろ反ロシアで結束を強めている。そういう国民感情があるから、ゼレンスキー大統領はよけい和平交渉にはつきにくいといいます。

 とはいえ、一時の勝利や国民感情に左右されていたら政治家は務まらない。
 婉曲にではあるけれどそういったのが、米軍トップのミリー議長だったのでしょう。
 時期を逃してはならない。
 その声を、誰かがどこかで聞き届けることができるかどうか。
(2022年11月11日)