見よ、今日も、かの蒼空に
飛行機の高く飛べるを。
石川啄木の「飛行機」を、いまもよく口ずさみます。
100年前の啄木にとって飛行機は、「給仕づとめの少年」が「肺病やみの母親」とともに見上げる、はるかかなたにありました。
いまそれは庶民の乗り物です。
それどころか、飛行機は地球温暖化を進めると、まるで悪者のようなイメージもあり、飛行機に乗るのをやめようという動きも起きている。フライト・シェイム、“飛ぶ恥”ということばがあることを以前このブログで書きました(2021年12月1日)。
そのフライト・シェイム、もとはスウェーデン語でおなじことを意味するフリーグスカム(flygskam)から来ている。どうやら飛行機で飛ばない運動はスウェーデンが震源地だったようです。さすがスウェーデン(The No-Jet Set: They’ve Given Up Flying to Save the Planet. Feb. 6, 2023. The New York Times)。
この運動を進めてきたのはスウェーデンのオペラ歌手で、環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの母親でもあるマレーナ・エルンマンさんとその仲間でした。彼女らの呼びかけで、すでに1万5千人が「少なくとも1年間、飛行機に乗らない」誓いを立てている。運動の母体である非営利組織「ウィー・ステイ・オン・ザ・グラウンド」(We Stay on the Ground)は、「私たちは地上にとどまる」という意味ですが、今後数年で10万人の署名を集めるといいます。
こういう“地上派”が、スウェーデンから世界に広がっている。
地上派は、飛行機の旅を否定しているわけではありません。飛行機を控えよう、飛ぶ回数を減らそうといっている。アメリカの活動家、カストリガノさんは指摘します。
「みんな、いつでもどこにでも飛んで行けるのが当たり前と思っている。それを当たり前と思わなくなったとき、ほんとに行きたい場所を考えるようになるんだ」
スウェーデンの活動家、ローゼンさんも旅のしかたが変わるといいます。
「私たちは休暇でほんとは何がしたいのか、考えなきゃいけない。なんでそんな遠くまで行くのか。飛行機をやめた人はいいますよ、列車の旅は、それ自体が冒険だと」
「地上にとどまる」のは、ただ温暖化の問題じゃない。
ぼくらはなぜ旅をするのか。飛行機があるから、じゃあ遠くまで行こうというようなものではなかったはずです。地上派の言い分は、旅についての思いをかき立ててくれる。旅って、もっと身近でもっと大事なもんだったんじゃないか。そんなことを思うようになります。
(2023年2月14日)