大胆な悲観論

 ウクライナはどうなっているのか。
 日本のメディアはもちろん、欧米のメディアも報道がなくなりました。でも戦争は終わっていない。クリスマスの日もロシアの砲撃で市民10人が死亡したといいます。戦場ではさらに多くの犠牲が出ているでしょう。
 そういうことがどうして気になるのかわからないけれど、ぼくはずっとウクライナのニュースを追っています。そこでBBCが伝えた「来年のウクライナ、専門家予測」が目に止まりました(Ukraine war: Five ways conflict could go in 2023. December 26, BBC)。

 イギリス、アメリカ、イスラエルの専門家5人が戦争の今後を見通しています。
 一番楽観的なのはワシントンのシンクタンク研究員、アンドレイ・ピオンツオフスキーさんです。春までにウクライナ軍がクリミア半島まで奪回して勝利するといっていました。これはやや信じがたい話です。
 もうひとり、欧州米軍の元指揮官も来年中にウクライナが勝利するというけれど、こちらは元米軍人の我田引水でしょう。

キーウ市(開戦前)

 残り3人は慎重派。このなかでキングス・カレッジ・ロンドンのバーバラ・ザンチェッタ博士に説得力を感じました。おおむね以下のようなものです。
・・・プーチンの戦略的誤算が戦争の長期化を招いた。結末は見通せない。ウクライナ人は驚くべきねばり強さを見せているので、戦争は長引くだろう。
 カギとなるのはロシア内部の動きだ。長引く戦争による消耗と犠牲者の増加で、ロシアのエリート層が揺らぐかもしれない。戦略的な誤算からはじまったアメリカのベトナム戦争もロシアのアフガニスタン戦争も、ともに国内の変化で終結した。ウクライナもこうした変化によって終わるしかないだろう。
 ただしそうなるためには西側のウクライナ支援が、それぞれの国内の反発にもかかわらず強く維持されなければならない。ウクライナ戦争は長期にわたる政治的、経済的、軍事的な決意の戦いだ。戦争は来年のいまもつづいている可能性がきわめて高い・・・

破壊されたロシアの戦車
(ブチャ、2022年12月, iStock)

 ロシア国内が変化しないかぎり、戦争は終わらないといいます。
 つまりプーチン体制がつづくかぎり、長期の消耗戦がつづく。そのプーチン体制はいまのところ揺らぐ気配がない。

 ザンチェッタ博士のコメントは新しいものではありません。これまでにもそういう見方がありました。にもかかわらず説得力を感じたのは、彼女がキングス・カレッジ・ロンドンの講師だからでしょう。ぼくはこの大学を、もっとも深い情報の集まる国でもっとも大胆な議論を進めるところと見ているので。
(2022年12月28日)