希望をつなぐもの

 アメリカの主要メディアは、戦場になれた専門記者がウクライナの最前線に入りこんでいます。
 12日はニューヨーク・タイムズのA・クレイマー記者が、南部のウクライナ軍の塹壕から戦況を伝えていました。
 3月のキーウ周辺とはかなりちがった様相を呈しています(By Andrew E. Kramer. May 12, 2022. The New York Times)。

 いま東部、南部でくり広げられているのは、大平原で対峙する両軍の大砲による砲撃戦です。
 すばやい動きが得意なウクライナ兵も、ここでは塹壕のなかに立てこもるだけ、外に出ることができない。そのウクライナ兵の塹壕に、ロシアが休みなく砲撃をつづけています。

ウクライナの小麦畑 (iStock)

 塹壕では、真ん中に監視兵が立っています。24時間、一瞬の休みもなく。
 立って、平原の向こうを見ている。その姿はプレイリー・ドッグのようだとクレイマー記者はいいます。アメリカの平原でよく2本足で立っているリス科の動物です。

プレイリー・ドッグ

 ロシアの大砲が火を噴くと、監視兵が叫ぶ。
「発射!」
 声を聞いたら、全員が3秒以内に溝のなかに飛び込んで身を縮める。
 砲弾が着弾し爆発する。直撃を受けないかぎり兵士は生き残ります。こんなことを四六時中くり返している。

 ウクライナ側にも大砲はあるけれど、口径は小さく射程は短い。威力を発揮できるのは敵の偵察部隊が迫ってきたときだけです。ずっと離れた敵の砲撃陣地は攻撃できない。
 ウクライナの152ミリ砲は射程が最大29キロ。ロシアの203ミリ砲は38キロ。
 射程に余裕のあるロシア軍は、勝手気ままに大砲を撃ちつづける。ウクライナは有効な反撃ができず、塹壕で身をひそめているしかありません。

ウクライナに供与されるM777榴弾砲
(Credit: The U.S. Army, Openverse)

 そうやって生きのびるウクライナ軍にとって、いまの希望はアメリカの重火器です。
 M777と呼ばれる最新の長距離砲などが届けば、ロシアより正確で機動的な砲撃ができる。合わせて敵を監視できるドローン、敵のレーダーを妨害できる電子装置などが配備される予定です。これでウクライナ軍は戦況を変えることができるでしょう。少なくとも塹壕でじっと生き延びるだけではなくなる。

 アメリカもそれはよくわかっているので、重火器の供給に力を注いでいます。
 戦場が変わり、戦況が変わる。それに合わせて支援の形も変わる。
 重火器が死活問題となるウクライナは、最前線にまでアメリカのメディアを入れ、リアルな状況を取材させています。
(2022年5月13日)