戦争の顔が見える

 今月1日、「顔がない戦争」について書きました。
 ミャンマーの山奥でつづく軍事独裁政権への抵抗は、ほとんど誰にも注目されず記録もされない。関係者の証言はあっても、戦争の顔は見えないということです。

 それが、ようやく見えました。
 BBCとニューヨーク・タイムズのスタッフがこのほど、それぞれ現地取材に入ったのです。この2つのレポート、ことにBBCの映像が秀逸です(The young rebels fighting for democracy. April 20, 2022, BBC)。12分39秒の長編レポートを、BBCはそれだけ価値ある映像として公開したのでしょう。以下のサイトで見られます。https://www.bbc.com/news/world-asia-61151314

ミャンマーのカレン族の村
(Credit: Tomorrow, Openverse)

 この映像で驚くのは、ミャンマーの少数民族、カレン族の軍事訓練キャンプとその戦闘場面を撮影していることでした。
 ミャンマーの軍事政権に対し、自治を求めるカレン族はすでに何十年も武装闘争をつづけています。その武装組織に、町から来たミャンマーの若者が加わっているといいます。部族のちがいを超え、軍事独裁を倒すという共通の目標が人びとをつなぎ合わせているのでしょう。

カレン武装勢力の拠点(資料映像)
(Credit: Linda DV, Openverse)

 BBCは、そういう若者のひとり、20歳の男性ミヨーさんの姿を追っていました。
 彼がはじめての戦闘に出た場面が、身体に付けたボディ・カメラで生々しく再現されています。政府軍のキャンプを襲った場面で塹壕に入り込み、監視所を銃撃しているところ、薬莢が飛び散り政府軍兵士が捕虜になるシーンもあります。その一方で、この戦闘で仲間のひとりが死亡し、ジャングルに埋葬される場面もありました。

 ボディ・カメラだけでなく、ドローンによる撮影、本人たちがスマホで捉えた縦長の動画映像が随所で使われ、一時代前にはありえなかった光景が再現されます。こうした映像によって、ぼくらはミャンマーの山奥で何が起きているのか、言語以前の空気を感じとることができるようになりました。
 軍事政権を倒すという若者の勇ましいことばとは裏腹に、彼の沈黙、汗、無表情が、この戦争全体がどこに向かっているのかを考えさせてくれます。

 内容もさることながら、こういう現地レポートが出てきたことにぼくは感銘を受けました。どんなに危険な紛争地帯であっても、現地に行くこと、現場に立つことがジャーナリズムの基本です。アジアの山奥でもBBCやタイムズは基本を通していると思いました。
(2022年4月22日)