戦略的忍耐

 やっぱりダメか。ウクライナの戦況を見ていると、ついそう思いたくなります。ここ1週間ほどは。
 東部ドンバス地方の激戦地でウクライナ軍はじりじり追いつめられている。もうすぐドンバス地方を制圧したプーチンが勝利宣言を出すのではないか。
 そう思いたくなるけれど、短絡だとコラムニストのデビッド・イグネシアスさんがいいます(In Ukraine, is the balance tipping in Moscow’s favor? Not yet. By David Ignatius. June 14, 2022, The Washington Post)。

 ワシントン・ポストの論客イグネシアスさんは、これまでも強気でした。ニューヨーク・タイムズの慎重さとくらべるといつも“一歩前のめり”です。でもただの憶測ではなく、ちゃんと「ペンタゴンの説明を受けた政府高官」や元軍人らの話をもとに書いている。

・・・ウクライナ軍は緊急に大量の重火器が必要だという。しかし事情はこみいっている。アメリカ軍は重火器M777を100門以上送り、さらに100門以上が送られるはずだ。ところがウクライナ軍は戦場でこれらを酷使しているので、かなりの数の砲身が消耗し修理が必要になっている。いっぽう弾薬は十分で、M777の砲弾はすでに25万発が送られた・・・

M777榴弾砲(資料映像)

 重火器はぜんぶが稼働しているわけではないけれど、それなりに使われていることがわかります。いずれその数が増え、十分な弾薬で安定的に運用されるでしょう。それはロシア軍にとっては脅威になる。

 またウクライナが求めているもうひとつの重火器、MLRS(多連装ロケットシステム)について、イグネシアスさんはこういっています。
・・・バイデン政権はMLRSを4台送り、さらに8台送る予定だ。これが使えるようになるまでには時間がかかる。使い方の訓練を受けていた最初のウクライナ部隊が、6月15日に訓練を終える。次の訓練が来週はじまる予定だ・・・

MLRS
(Credit: DVIDSHUB, Openverse)

 MLRSも、着実に前線で使われるようになるでしょう。詳細がわかり先の見通しがたつと、戦況を見るときの気分のうわつきがなくなります。

 イグネシアスさんはいいます。
・・・あるベテラン将校がこの戦争を左右するのは「戦略的忍耐だ」といった。ウクライナ軍は勝利していない。しかし負けてもいない。その間に西側の武器供給は増えてゆく・・・

 戦況はいずれ、いまとはちがう定常状態をむかえるでしょう。それは戦略的忍耐がなければ達成できない、ということです。
(2022年6月16日)