新時代のウィスキー

 地球環境を守るために、ウィスキーづくりにはもうピートを使わない。
 そんなメーカーがあると聞き、おお、時代は変わったと思いました。同時にそれでウィスキーができるのかと疑問を覚え、温暖化対策ならしかたがないかと納得もします(Whisky makers are turning their backs on peat. July 22, 2022, BBC)。

 ウィスキーってのはピート、スコットランドの泥炭をいぶし、独特の香りをつけたのが本物と思ってきました。いや70年代のテレビコマーシャルでそう刷りこまたというべきでしょうか。常識を覆された思いです。
 新スタイルの醸造法を主導するアナベル・トーマスさんはいいます。
「スコッチ・ウィスキーに世界の人が抱く思いを変えたいんです。自然と地球、人間と利益のバランスがとれたものをつくって」

ピート(泥炭)の湿地

 ウィスキーは大麦などを発芽させる段階で、泥炭の一種であるピートを燃やし、乾燥させて発芽を止めます。このときのピートの煙がウィスキーの独特な香りになる。でもトーマスさんは最初からいっさいピートをつかいませんでした。
「ピートを燃やして使うのは持続可能じゃありません。ピートは長い年月をかけてできたもので、膨大な炭素をためこんでいるし、ピートの沼はすばらしい生物多様性を維持している。それを燃やしたら炭素が大気中にもどってしまう」

切り出されたピート

 ピートは陸地の3%をカバーし、すべての森林の2倍の炭素を貯蔵しているといいます。実際にウィスキー産業が使うピートの量はわずかですが、ピートを切り出し、燃料として使おうとすると、沼の水を抜いて乾燥させたりするので環境に与える影響は大きいと専門家はいいます。

 ピートなしでもウィスキーはできる。スコットランドでも、ピートを使わないウィスキーはむかしからありました。ちょっと変わり種といったところでしょうか。ピートの代わりに食用油を使ったり、なかには羊の糞を燃やすメーカーもある。こうした新しいテーストはそれなりに愛好家が増え、市場を広げているといいます。

 ぼくはもうずいぶん前からウィスキーは飲んでいませんが、「ウィスキーといえばスコッチ」というのは過去の話で、日本の年代物ウィスキーが世界的なプレミアムになったことは知っています。でもピートなしのウィスキーがあるなんて知りませんでした。それが持続可能性のためだと聞けば、いい話だなあとも思います。
 一方で、地球温暖化への懸念は伝統的な職人芸のイメージが強いウィスキーづくりまで変えているのかと、いささかの感慨も覚えます。
(2022年8月2日)