欧州外交の失敗

 ヨーロッパの対ロシア外交は失敗した。
 冷戦後のヨーロッパは、ロシアに対しては緊密な相互依存を深めることで安全保障が実現できると考えてきたが、その路線は根本的な転換を迫られている。安全保障はいまや外交よりもむしろ軍事で考えなければならなくなった。
 ニューヨーク・タイムズのベテラン編集者、ロジャー・コーエンさんの評論を読んで、“平和外交”という概念が力を失っていると感じました(War in Ukraine Has Changed Europe Forever. By Roger Cohen. Feb. 26, 2023. The New York Times)。

 これまでロシアと西欧のあいだで中立を保ってきたフィンランドは、ロシアがウクライナに攻め込むと同時に中立を放棄、西欧、NATOとの同盟に向かいました。ニイニスト大統領は「仮面は落ちた。戦争の冷酷な顔が見える」と、フィンランドの戦後外交が幻となって瓦解したことを認めています。
 コーエンさんはいいます。
「ウクライナ侵略は、1989年の冷戦の終結以来、ヨーロッパを根底から変える最大の出来事だった。ドイツをはじめとするヨーロッパに強かった平和志向は、安全保障の追求には軍事力が必要という認識に変わっている。何も考えずにまどろんでいた欧州が、ウクライナの、そして自分たちの自由を守るために、雷に打たれたように覚醒したのだろう」

 去年まで、ロシアとの経済外交関係の強化が平和を守る手段と信じていたドイツは、ロシアの脅威に対抗するため、15兆円規模の軍事予算の増強を掲げています。フランスのデラットル駐ドイツ大使はいいました。「この戦争はヨーロッパ人を基本に立ち返らせた。戦争とは何か、平和とは何か、私たちにとって大事なことは何か」
 議論のなかで見えてきた現実は、アメリカの軍事力とゼレンスキー大統領の決意がなければ、自由は守れなかったということです。
 自分を守ることができないヨーロッパ。

 コーエン記者は指摘します。
「ひとことでいえば、戦争はヨーロッパが歩むべき道筋をあきらかにした。平和の唱導者ではなく、実力で侵略に対抗できる存在になることだと」
 こういう評論を日本で読むと、ずいぶんタカ派的と感じるかもしれません。でもこれがいまのヨーロッパ大陸の空気でしょう。平和と外交に希望を託してきた人びとの多くは、結局平和ではなく、アメリカの軍事力に頼っているという現実をうつむきながら見つめるしかない。
 おそらくこれは近未来の日本の姿でもある。いや日本はこの1年のヨーロッパほどには、整然と変化することができないかもしれません。
(2023年3月2日)