いつか一度は乗ったみたかった。
犬ぞり。北極や南極など、極寒の地でむかしから頼りとされてきた移動手段です。
シベリアのハスキー犬や樺太犬などが有名で、ぼくらの年代にとっては、南極の昭和基地に置き去りにされた樺太犬、タロとジロが自力で1年生きのびた逸話が強く印象に残っています。
その犬ぞりを引く犬がいなくなっている。グリーンランドで。
これまた地球温暖化のせいなんだそうです。気候変動ってこんなとこにまで影響してるのかと驚きました(Climate change: Greenland’s culture shifts as Arctic heats up. October 12, 2022, BBC)。
原因は、グリーンランドの氷がどんどん溶けているからです。
ここではむかしから、漁師は犬ぞりで氷の海の上に出かけ、オヒョウなどの魚を獲っていました。それが最近は氷が溶けて割れ、薄くなって危険になったので、犬ぞりでは氷上に出られなくなったようです。
14歳のときから漁に従事していたカリーラク・マテウッセンさんは、2001年から異変に気づくようになりました。犬ぞりは危険になったので2年前にやめ、いまでは船を使って漁をしています。いまだに30頭の犬を飼ってるけれど、それは漁のためではなく、息子に犬ぞり文化を引き継ぐためだといいます。
「いまでもかつての暮らしがなつかしい。でももうこうするしかないんだ」
20年前、そりを引く犬はグリーンランドに5千頭いました。それがいまでは1800頭に減っている。スノーモービルのせいもあるけれど、誰でも感じるのは氷河が後退し、氷が減っていること。しかも、とツアーガイドのひとりがいいます。
「むかしはもっと天気が予測できた。いまはそうじゃない、こんなに雨が降った年はなかったし」
グリーンランドの氷が溶けているために、毎年地球の海水面は1.5ミリメートル上昇していると科学者はいいます。炭素排出量を抑えてもこの影響はつづき、少なくとも27センチ上昇するまで止まることはない。全世界の氷が溶けたら海水面は7メートルも上昇するというから、地球上の沿岸部の大部分で人は住むことができなくなるでしょう。
自然に取り囲まれて暮らしているグリーンランドの人びとは、こうした氷河の後退などの変化を「毎日感じるし、毎日見ている」といいます。
町に暮らすぼくらはなかなかそういう実感が持てない。でも犬ぞりが使えなくなったと聞けば、ちょっとヤバいんじゃないかと思う。そういう情緒的な捉え方もあってもいいんじゃないでしょうか。いろいろな捉え方で気候変動を「気にする」。それが大事なんだろうと思います。
(2022年10月13日)