田んぼの時間

 17日、ひがし町診療所は稲刈りでした。
 薄曇り、ときどき薄日がさす秋の好日。黄色い稲穂がびっしり並ぶ田んぼにたくさんの人が入りました。

 診療所デイケアのメンバー、スタッフのほか、町内の福祉施設や子どもグループ、隣町の中学生たちなど。診療所とつながりがある人たちで、いずれも誰かが知ってはいるけれど、全員を知っている人は誰もいない。そういう多彩な顔ぶれが60人ほど。
 稲を刈り、運び、紐で束ねて稲架(はさ)にかける。
 誰もが好きなように動きます。テキパキと、ゆっくりと。木陰で休むだけって人もいて。

 鎌はこう持って、こういうふうに刈るんだよ。
 おとなが教え、子どもが習います。そのとおりにする子もいれば、そうでない子も。すぐにあきて遊び回っている子も。
 稲の束は、ほどけないようにきちっと結びます。でも太さがばらばら。ひとりがつぶやきました。「もうちょっと太く、水野くんの手首くらいで」。それを復唱する大声があがります。「水野くんの手首だってさー」。それからできる稲束は半分くらいがそうなり、半分はやっぱり太かったり細かったり。

 診療所に申し込んでいた人には弁当が配られ、それ以外は自前の昼ごはん。田んぼのあぜで食べると一味おいしい。そのあいまをぬって田んぼのオーナー、小野寺信子さんがハウス栽培のイチゴやどら焼きを配ってくれました。

田んぼの横に立つ”幻聴カカシ”

 3時間ほどで刈り取りは終わりました。
 去年よりは若干収量が少ない。これだと2俵ちょっとかなと“田んぼワーカー”木村貴大さんがいっていました。
 稲刈りは、じつは数日前からはじまっています。診療所のリワークのメンバーや隣町のお年寄りなど、あれこれの事情で別の日に来た人たちがいました。リハビリの一環だったり、日常からの気分転換だったり、かつて農家だったころの再現だったり。そういう人たちが1列、2列と稲刈りをしていったそうです。
 1枚の田んぼで、さまざまな人たちがさまざまに実りの秋を楽しみました。

 近くの小川には、サケが上っています。ばしゃばしゃと水音を立てて。
 診療所の田んぼは、時間がゆっくりと、だけど濃く流れます。
(2022年9月19日)