町の文庫

 アメリカの「ローンライブラリー」を、1年あまり前にこのブログで紹介しました(2021年12月18日)。自宅の庭先に小さな本箱を設置し、そのなかの本を通りがかる人が誰でも読んだり借りたりできるようにしたミニライブラリーです。フリーライブラリーともいうらしい。
 このローンライブラリーが、日本にもありました。横浜市の川和台にある「はちのじぶんこ」です。

 地域の住民である黒沼宣子さんが、この文庫を設置していると地元の地域情報紙「タウンニュース(2月23日・都筑区版)」で知りました。日本にもこういうセンスのいい人がいるんだと、ちょっとこころ踊る気分です。

「はちのじぶんこ」と黒岩宣子さん
(タウンニュース・都筑区版・2月23日号)

 タウンニュースによると、ブックカフェや本の補修ボランティアをしてきた黒沼さんは、2021年にこの文庫を自宅前に設置しました。写真で見ると、人の背丈ほどの書庫に数十冊の本が並んでいる。ほとんどは地域の人が寄付したもので、読みたい人は誰でも自由に持っていけます。返しても返さなくてもいい。はちのじぶんこという名前は、「この小さな図書館を通じ、本が人と人の間を8の字に巡る」ことを期待しているからだそうです。
 すばらしい。
 こういうしかけがあると、その地域の人と人がつながる“ぬくもり”が生まれます。

 その一方でまた思いました。
 はちのじぶんこができたのは、町から本屋さんが消えていくからだろうか。ネットへの依存は強まるばかりで、みんなますます本を読まなくなった。読むとしても雑誌かハウツーもの、あるいは電子書籍。ぼく自身、日常読む本のほとんどはキンドルになりました。

 でも、だからこそ、紙の本の価値が見直される。そのためのさまざまな試みがはじまっているのではないか。
 先日、本が好きな人から、たった一冊の本を作るワークショップというのがあると聞きました。世界に一冊しかない本を自分で作る。これはその人の肖像画ようなものかもしれない。そういうワークショップだけでなく、本屋も図書館ももっともっと多様な形にしたいという思いがあちこちにふくらんでいます。カフェだけじゃなく飲食もできるスペース、ごろんと横になれて、防音ガラスで仕切られた一画では子どもも騒げる、たまたま本もちょっと置いてあるというような。
 そういうのができたらどんなにいいだろう。本好きの話は果てしなく広がります。なかには「本のない本屋」とか「本のない図書館」というアイデアまである。人間が本になればいい。なんと大胆な冒険か。

 はちのじぶんこも、本をめぐる冒険のひとつでしょう。それがすこしずつ広がっていると聞いて、本への希望がまたふくらみます。
(2023年2月27日)