着地点はどこか

 ウクライナ戦争はどう終わるのか。
 ニューヨーク・タイムズのボカート=リンデル編集委員が、解説記事をまとめています。
 たくさんの専門家、識者に聞いても、要するに見通しはつかない。明快な答えはない。でも長文の記事を読んで、「わからないなら、そんな記事書くなよ」とは思わない。戦争がいまどのような状況なのか、焦点はどこか、複眼的な捉え方にぼく自身は「なるほど感」を覚えます。その一部を紹介します(Is There Any End to the Ukraine War in Sight? Aug. 10, 2022, By Spencer Bokat-Lindell, The New York Times)。

・戦況は膠着状態。東部でロシア軍が攻勢に出ているがここ数週は目立った戦果を上げていない。一方、南部ではウクライナ軍が攻勢に出ている。
・ロシア軍のこれまでの死傷者を、米国防総省は8万人規模と見ている。ウクライナ軍についても相当な死傷者を出しているはずで、両軍ともに兵力、武器弾薬の消耗が激しい。
・欧米の最新鋭の武器支援でロシア軍の攻勢は鈍っている。とはいえ、アメリカがウクライナに対して行った1兆円以上の武器援助は、いつまでもはつづかないだろう。

・当面の天王山は南部戦線。ロシア軍が占領しているヘルソン市をウクライナが奪回できるかどうか。
・ウクライナがヘルソン奪回に失敗し、戦況がいまのまま固定されれば、ウクライナは「国家として存続できなくなる」とゼレンスキー大統領はいっている。つまり政治的な敗戦。
・一方ヘルソンをウクライナが奪回すれば、ロシアにとっては大打撃。そうなればプーチン大統領は戦術核兵器や化学兵器の使用に踏みきるかもしれない。

 ボカート=リンデル編集委員ははっきり書いているわけではないけれど、ぼくは記事を読んで、秋までにはひとつの方向性が出てくるのではないかという感触を持ちました。
 南部のヘルソン奪回ができなければ、ウクライナはある種の限界を迎えた形となり、局面の打開を考えなければならない。停戦交渉とはいわなくても、何らかの形での外交解決を考える可能性があります。あるいはウクライナ国内のある程度の人びとが、戦争は無限にはつづけられないと考えるようになるかもしれない。

 ロシアもまた限界をむかえることになる。いまはウクライナ全土を手に入れるまで戦争をやめないといっているけれど、ロシア軍にそれだけの力があるとは思えない。プーチン大統領は当初の目標をほとんど達成できないまま、「作戦は大成功だった」といって幕引きを図る可能性があります。ロシア国民の多くは疑いもなくそれを信じるでしょう。

 いろいろな可能性を考えます。考える材料をたくさん与えてくれる記事でした。
(2022年8月11日)