石窯ができた

 天気がいいので、診療所から散歩に出ました。
 歩いて15分ほどのところにあるグループホーム「すみれⅢ」まで。車が通る町道ではなく、乳呑川という小川沿いの小道をたどります。川岸の柳が緑っぽくなり、綿のような若芽をたくさんつけていました。

 すみれⅢの前にクレーン車が見えました。
 小さな小屋の骨組みのような、屋根と4本柱の構造物を吊り降ろしています。物置か、それともあずま屋か。よく見ると小屋の下に土壁の丸いドームがありました。

 なんと石窯をつくっていたのです。
 この石窯、町内の老人ホームから持ってきました。寄付してもらったけれどぜんぜん使っていない、じゃあすみれに移して使おうということで持ってきました。
 老人ホームにはきっと、石窯を使う余裕なんてなかったんでしょうね。
 でもすみれはちがいます。これで火をおこしてピザを焼けば、オーブンで焼くよりずっと早い。しかもパン生地がパリッと焦げて、断然おいしい。

 人が集まる、おいしいものを食べる、楽しい時間が生まれる。その道具立てとしての石窯はグループホームすみれのコンセプトにぴったり、無理をしてでも使わなければいけません。

 石窯のすぐ後ろは山、水の流れる沢にヤチブキが咲いています。これもいっしょに食べればいい。アウトドアとピザ、健康野菜のパーティ。こういうしつらえが精神障害者のグループホームに備わっているなんて、ほかの町だったら考えられない。でもこれがひがし町診療所の流儀です。その流儀に引かれていろいろな人がやってくる。住民そっちのけで。

 当の住民は、とりえあず元気なようでした。
 先週もメンバーのひとりがワーカー相手にプチ爆発、すぐに仲直りしたとか。病気が重いメンバーは空腹だとやばいので、食べさせればいいとわかってきました。週1日しか泊まりに来なかったメンバーが、いまは週4,5日泊まれるようになっています。
 ホウレン草の農作業で途絶えていた住居ミーティングを、そろそろはじめようかと、きのうは久しぶりに住人3人でミニ・ミーティングをしました。
 今夜はビーフ・カレー、スタッフではなくメンバーがつくるそうです。

 そういう日々の暮らしのあれこれがちゃんと外に伝わってくる。それはたくさんのいろいろな人がすみれにやって来るからでしょう。すみれには人を引きつける力があります。石窯はその力をさらにパワーアップするでしょう。
(2022年4月28日)