砂のバッテリー

 いまや太陽光や風力発電はどこでも当たり前の風景です。
 もっと広がれば脱石油、脱原発も進むと期待を強めていたら、どうもそうかんたんなものでもないらしい。太陽光や風力はときどき発電しすぎになるから、使わないこともあるといいます。
 電気があまったらためておけばいいと思うけれど、それができない。それだけの蓄電池を備えたら採算が取れないということで。
 いったい電気って、足りないのか、あまっているのか。

 なんとかならないのかと思っていたら、フィンランドで斬新な対策が実施されているというニュースがありました。
 余剰電力を、熱に変えて保存するのです。余剰電力を大きな容器に入った砂を加熱するのに使う、その熱エネルギーをあとで取り出して使えるようにするという方式です。これが広がればエネルギーの節約として画期的だし、太陽光や風力発電などグリーン・エネルギーの普及にも大いに貢献するでしょう(Climate change: ‘Sand battery’ could solve green energy’s big problem. July 4, 2022, BBC)。

 余剰電力での加熱は、砂を500度もの高温にするそうです。それを特殊な断熱容器のなかに入れておくと、数日どころか数か月も保存できる。こうすれば太陽光や風力は発電しすぎになる心配がなく、安価で安定的なエネルギー源として稼働しつづけることができます。
 熱をためる媒体として無尽蔵で無害な砂を使うこと、高温の砂を高度な断熱装置にとじこめておくことがポイントでしょう。この“砂のバッテリー”、フィンランドのポーラー・ナイト・エナジー社が特許を取り、実用装置の稼動がはじまりました。

砂の”蓄熱バッテリー”模式図
ポーラー・ナイト・エナジー社サイトから

 原理を聞くと単純明快です。
 あまった電気を熱に変え、その熱を保存する。あとで使えるようにする。
 そんなこと、誰だって思いつくだろうという気がします。でも思いつかない。思いついてもできっこないと思ってしまう。しかもそれを砂でやるなんて想像力を超えています。
 これがフィンランドなのでしょうか。

 砂のバッテリーがほんとうにエネルギー問題を解決するかどうか、いまはわかりません。
 うまくいったら、「なるほど、頭のいいやつがいた」ということになるでしょう。でもこの話、「頭のいいやつがいた」だけにとどまらないのではないか。フィンランドという国の、個を大事にしちがいを奨励する教育システムのひとつの帰結ではないのか。飛躍かもしれないけれど、ぼくはそんなことを考えてしまいます。
(2022年7月8日)