筋書きに沿って

 ウクライナ支援で、乱れたかに見えた欧米の足並みがそろいました。むしろ結束は強化されたようです。ぼくはこのブログで23日、西側の混乱で「プーチン大統領はほくそ笑んでいるだろう」と書きましたが、こんどは「苦虫を噛みつぶしているだろう」と書かなければなりません。

 いまウクライナ戦争の焦点は「主力戦車」です。
 ウクライナ軍は西欧の主力戦車の供給がなければロシア軍に対抗できない。だから主力戦車がほしいとずっといってきたけれど、西欧諸国はロシアを挑発するとこれを拒んできました。
 でももうそんなことはいってはいられない。プーチン大統領はどんな犠牲が出ようと戦争をやめない、この狂気を止めなければならないと誰もが考えるようになった。

ドイツ軍戦車「レオパルト」
(Credit: Tobi NDH, Openverse)

 そして25日、ドイツのショルツ首相はドイツ軍の主力戦車「レオパルト」をウクライナに提供すると発表しました。またアメリカのバイデン大統領も、アメリカ軍の主力戦車「エイブラムス」の提供を発表しています。軍事的にも政治的にも、ウクライナ戦争はまたひとつの分岐点を越えました(Ukraine Allies to Provide Tanks, Strengthening Their Commitment to Kyiv. Jan. 25, 2023, The New York Times)。

 そうか、そういうことだったのか。
 いまぼくはようやく、アメリカとヨーロッパのあいだでずっとつづいてきた複雑な舞台裏の動きが、ひとつの像に焦点を結んだ気分です。
 戦車がほしいと必死にいいつづけてきたウクライナ。
 ちょっと無理でしょと、拒否してきたアメリカ。
 アメリカが動かないなら自分も動かないといいつづけたドイツ。
 なら先頭に立つと、勝手に戦車供給をはじめたイギリス。
 合意なんかいらないとフライングしそうだったポーランド、フィンランド、などなど。
 いろんな役者がてんでに動き、欧米は亀裂だらけに見えました。でも最後にはひとつにまとまっている。見渡せばみんなの顔が立ち、まるでひとつの筋書きに沿って西側の各国が動いたかのようです。

アメリカ軍戦車「エイブラムス」

 予兆は先週のニューヨーク・タイムズに出ていました。「バイデン政権がウクライナのクリミア半島攻撃を支援する方向」というスクープについてはこのブログで書きました(19日)。このときアメリカはすでに戦車の供給を決断していたはずです。その筋書きに沿って25日、米独がそれぞれ独自の判断にもとづいて主力戦車を供給するという発表になったのでしょう。
 ウクライナ軍がドイツ、アメリカの戦車を実戦で使えるようになるまでには、数か月から数年かかります。長期的戦略にもとづいた西側の戦車供給は、クリミアの奪還を視野に入れている。その気迫はロシア側にも伝わったはずです。西側もようやく、「プーチンとのつきあい方」を身につけたのでしょうか。
(2023年1月26日)