脅してはならない

 薬物は一度やったらやめられません。人生を破壊します。ダメ、絶対ダメです。
 こんなメッセージが、先日横浜で路線バスに乗っていたら放送されていました。まだやってるのかとあきれながら、あらためて「“絶対ダメ”は、ダメ」と思いました。
 絶対ダメ、とわれるとかえってやりたくなる。それが依存症です。
 厚労省も警察も、どうして当事者のいっていることを聞かないんだろうかと、ぼくはずっと疑問に思ってきました。

 それは人を信じていないからでしょう。
 高圧的に「ゼロ薬物」といい、違反者は厳罰にする。そういう日本の薬物行政は、ゼロ・コロナを唱える中国とおなじです。
 一方、人間の自由、自律を唱える西欧で主流になりつつあるのは、厳罰ではなく依存者への共感と包摂です。どう罰するかではなくどう応援するか、ハームリダクションというアプローチについては、このブログでも何度か取りあげました(2021年8月15日、2022年5月6日、7月11日)

 薬物依存に詳しいジャーナリストのマイア・サラヴィッツさんは、ハームリダクションはいまや重度依存者の回復プログラムだけでなく、学校教育にも取り入れるべきだと提唱します(How to Talk to Kids About Drugs in the Age of Fentanyl. Nov. 8, 2022, By Maia Szalavitz. The New York Times)。

 かつてのヘロインやコカインなどの麻薬にくらべ、いま町に出回っている合成麻薬がどれほど強力か、それがどのように「パーティドラッグ」に混入されているか、そういうことを10代の子どもたちにきちんと教えた方がいい。
 麻薬は決してひとりでやってはいけない。やるときは麻薬の解毒剤、ナロキソンをすぐ使えるように用意しておくこと、などの情報とともに。

マイア・サラヴィッツさん

 麻薬の使い方を教えたりしたら、「寝た子を起こす」だけだという批判はアメリカでも強い。でもサラヴィッツさんはいいます。
・・・20世紀のプログラムは、違法薬物について誇張された恐ろしい話をして子どもたちを脅し、遠ざけようとした。しかし米厚生省(SAMHSA)など多くの研究で、そういう手法は子どもたちの行動を変えないことが明らかになっている・・・
 一度やったら人生おしまい、と脅すより、一度やっても立ち直る人はいるけれど、抜け出せなくなる人もいると正確に説明すること。たとえばそのように誠実に向き合うことで、子どもたちは真剣に聞くようになります。

 日本の厚労省と警察は、いまだに20世紀のプログラムにしがみついているんですね。
 どうすれば「処罰」から「信頼」に変われるのでしょうか。
(2022年12月2日)